戦没者遺族が受けていた特別弔慰金は相続できる? 可能なケースとは

2022年06月28日
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戦没者遺族が受けていた特別弔慰金は相続できる? 可能なケースとは

戦没者の遺族は、数年ごとに「特別弔慰金(特別遺族弔慰金)」を受け取ることができます。

鹿児島県でも、戦没者の遺族に対する援護として、各市区町村の援護担当課に請求窓口を設けています。特別弔慰金請求権は相続の対象となるため、亡くなったご家族が特別弔慰金の支給対象者の場合は、お早めに相続手続きを行う必要があります。

今回は、戦没者遺族が有する特別弔慰金請求権の相続などについて、ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスの弁護士が解説します。

出典:「令和3年度鹿児島市統計書」(鹿児島市役所)

1、戦没者遺族が受け取る「特別弔慰金」とは?

「特別弔慰金」とは、今日の日本の平和と繁栄の礎となった戦没者等の尊い犠牲に思いをいたし、弔慰の意を表する目的で、戦没者等の遺族に支給される弔慰金です。

「戦没者等の遺族に対する特別弔慰金支給法」(特別弔慰金支給法)に基づき、定期的に特別弔慰金が支給されています。

なお、戦没者等の遺族に対する補償を行う趣旨の制度として、特別弔慰金以外に各種の特別給付金が設けられています。

参考:「特別弔慰金及び各種特別給付金の制度の概要」(厚生労働省)

  1. (1)特別弔慰金の支給対象者

    特別弔慰金の支給対象者は、戦没者等が死亡した当時の遺族の中で、最先順位の者1名です。

    2020年4月1日を基準日とする第十一回特別弔慰金の場合、戦没者等の遺族の間での支給順位は、以下の要領で決定されます。

    ① 2020年4月1日までに、戦傷病者戦没者遺族等援護法による弔慰金の受給権を取得した者(配偶者)
    ※以下の要件をすべて満たしていることが必要です。
    • 遺族以外の者の養子になっていないこと
    • 基準日において、遺族以外の者と改氏婚および事実婚をしていないこと

    ② 戦没者等の子で、基準日において遺族以外の者の養子になっていない者
    ※戦没者の死亡当時、胎児であった子を含みます。

    ③ 戦没者等の父母
    ※戦没者等の死亡当時、戦没者等と生計関係を有していた父母が先順位となります。
    ※同順位者間では、養父母が先順位となります。

    ④ 戦没者等の孫で、基準日において遺族以外の者の養子になっていない者

    ⑤ 戦没者等の祖父母
    ※戦没者等の死亡当時、戦没者等と生計関係を有していた祖父母が先順位となります。

    ⑥ 戦没者等の兄弟姉妹で、基準日において遺族以外の者の養子になっていない者

    ⑦ ③に該当しない戦没者等の父母

    ⑧ ④に該当しない戦没者等の孫

    ⑨ ⑤に該当しない戦没者等の祖父母

    ⑩ ⑥に該当しない戦没者等の兄弟姉妹

    ⑪ ①~⑧以外の戦没者等の三親等内の親族で、戦没者等の死亡時まで、引き続き1年以上の生計関係を有していた者
    ※戦没者等の葬祭を行った者が先順位となります。
  2. (2)特別弔慰金は無利子記名国債で支給される

    特別弔慰金は、無利子の記名国債によって支給されます。

    第十一回特別弔慰金の場合、特別弔慰金として支給される記名国債は、額面25万円・5年償還とされています。

    支給対象者は、2021年からごと年1回の償還日(4月15日)以降、年5万円ずつ記名国債の償還を受けることができます。

    償還金の支払いを受ける場所は、請求手続きの際に指定した郵便局等です。

  3. (3)特別弔慰金は何年ごとに支給される?

    特別弔慰金は、特別弔慰金支給法の改正に基づいて支給されています。
    そのため、どのタイミングで支給されるかは、各支給回について行われる法改正の内容次第です。

    第一回特別弔慰金は戦後20周年に当たる1965年に支給され、その後は10年ごとの節目の年に支給されていました。

    1979年以降は特例的な措置として、各節目の年の4年後にも、新たに対象となる遺族について特別弔慰金が支給されるようになりました。

    また、戦後70周年に当たる2015年には、弔慰の意を表す機会を増やす目的で、特別弔慰金を5年ごとに2回支給するものとされました。

    直近では、2020年4月1日を基準日とする第十一回特別弔慰金の支給が決定されています。

  4. (4)特別弔慰金の請求手続き

    特別弔慰金は、請求期間内に市区町村の援護担当課に対して請求する必要があります。
    第十一回特別弔慰金の請求期間は、2020年4月1日から2023年3月31日までです。

    特別弔慰金の請求に当たっては、主に以下の書類を提出する必要があります。

    • 戦没者等の遺族に対する特別弔慰金請求書
    • 第十一回特別弔慰金国庫債券印鑑等届出書
    • 戦没者等の遺族の現況等についての申立書
    • 戸籍書類等
    • 本人確認書類
    など


    ただし、個々の状況によって請求者が提出すべき書類が異なりますので、お住まいの市区町村の援護担当課にご確認ください。

    参考:「『戦没者等の遺族に対する特別弔慰金』(第十一回特別弔慰金)の支給について」(厚生労働省)

2、特別弔慰金請求権は相続できる

特別弔慰金請求権は、支給対象者の有する資産であるため、支給対象者が亡くなった場合は相続の対象になります

  1. (1)特別弔慰金請求権を相続する人の決定方法

    特別弔慰金請求権を相続する人は、以下の要領で決定されます。なお、特別弔慰金を受給できるのは1名のみであるため、特別弔慰金請求権そのものの分割相続は認められません。

    ① 遺言書
    支給対象者が作成した遺言書によって、特別弔慰金請求権を相続する人が指定されていれば、その人が相続します。

    ② 遺産分割協議
    遺言書による指定がなければ、すべての相続人・包括受遺者の間で遺産分割協議を行い、特別弔慰金請求権を相続する人を決定します。
    相続人となるのは、配偶者および以下の順位に従った最上位者です。
    • (a)支給対象者の子
    • (b)支給対象者の直系尊属
    • (c)支給対象者の兄弟姉妹
    ※支給対象者の子および兄弟姉妹については、代襲相続が認められる場合があります(民法第887条第2項、第3項、第889条第2項)。

    ③ 遺産分割審判
    遺産分割協議がまとまらなければ、最終的に遺産分割審判によって相続の方法が決まります。
  2. (2)特別弔慰金請求権の相続権が失われる場合がある

    以下のいずれかに該当する相続人は、特別弔慰金請求権の相続権を失います。

    1. ① 支給対象者の死亡時点で、すでに死亡している場合
    2. ② 相続欠格事由に該当する場合(民法第891条)
    3. ③ 相続廃除の審判を受けた場合(民法第892条)
    4. ④ 相続放棄をした場合(民法第939条)


    なお、死亡・相続欠格・相続廃除によって支給対象者の子または兄弟姉妹が相続権を失った場合、相続権を失った者の子が、代襲相続によって相続権を取得します(民法第887条第2項、第3項、第889条第2項)。

  3. (3)特別弔慰金請求権の相続手続き

    特別弔慰金として支給された記名国債が手元にある場合は、記名変更手続きを行うことにより、相続人が引き続き償還金を受け取れます。(参考:「記名国債の記名者が亡くなった場合には、どのような手続きが必要ですか」(財務省))

    これに対して、未請求の段階で、または請求手続き中に支給対象者が亡くなった場合、市区町村の援護担当課で手続きをとる必要があります。相続手続きの詳細については、お住まいの市区町村の援護担当課へご確認ください。

3、特別弔慰金は相続税の対象にならない

特別弔慰金支給法第12条により、特別弔慰金は非課税とされています。

したがって、特別弔慰金請求権は相続の対象となるものの、相続税の計算に当たっては、特別弔慰金額を課税対象財産に含める必要はありません。

4、遺産相続への対応を弁護士に相談すべきケース

遺産相続に関する対応は、弁護士にご依頼いただくことをお勧めいたします。特に、以下のいずれかに該当する場合には、弁護士に対応をご依頼いただくメリットが大きいと考えられます。

  1. (1)他の相続人と揉めてしまった場合

    遺産分割協議で他の相続人と揉めてしまった場合、当事者だけで問題を解決することは困難です。

    弁護士は、客観的・法的な観点から遺産分割協議の調整を行い、円満・迅速な相続トラブルの解決をサポートいたします。

  2. (2)相続財産の把握が難しい場合

    生前の被相続人と同居していなかった場合、相続財産の把握が困難なケースが多いです。
    同居の相続人が財産を使い込んでしまい、トラブルに発展することもあります。

    弁護士は、必要に応じて弁護士会照会(弁護士法第23条の2)等の調査を行い、漏れのない相続財産の把握に努めます。

  3. (3)トラブルなく遺産相続を完了したい場合

    現時点では相続トラブルが発生していなくても、遺産分割協議等を進めていくうちに、相続人同士の対立が顕在化してトラブルに発展するケースがよくあります。

    弁護士は、各相続人の立場や主張に配慮し、できる限り全員が納得できるような合意形成を目指して慎重に調整を行います。弁護士主導の調整により、相続トラブルが発生するリスクを抑えられる可能性が高くなります

5、まとめ

戦没者等の遺族に対する特別弔慰金のように、本来であれば相続の対象になるものの、見逃されがちな相続財産は数多く存在します。すべての相続財産を漏れなく分割し、後の相続トラブルの再燃を防ぐためには、弁護士への相談がおすすめです

ベリーベスト法律事務所では、遺産相続に関するご相談を幅広く受け付けております。
相続に関するお悩みや疑問点は、お早めにベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスへご相談ください。

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