遺産をそのまま相続する「現物分割」のメリット・デメリット
- 遺産を受け取る方
- 現物分割
2020年10月時点での鹿児島市の65歳以上の人口は15万8804人でした。年を重ねると気になってくるのが相続問題です。
特に不動産の分割は難しく、方法のひとつとして知っておきたいのが「現物分割」です。現物分割とは財産を物理的に分割する手段で、たとえば、相続した土地を分筆した上で分けるケースなどが現物分割に当たります。
現物分割を検討する際には、代償分割・換価分割など他の方法との間で、メリット・デメリットを比較することが大切です。相続人同士でよく話し合って、望ましい遺産分割の方法を模索しましょう。
今回は遺産相続における「現物分割」について、メリット・デメリット・現物分割が適しているケースの例などを、ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスの弁護士が解説します。
出典:「令和3年度鹿児島市統計書」(鹿児島市)
1、現物分割とは
「現物分割」とは、財産を物理的に分割することを意味し、共有物分割や遺産分割の方法(分割類型)の一つです。
共有物分割や遺産分割の方法には、現物分割のほか、「代償分割」や「換価分割」などがあります。
- 代償分割:一部の共有者(相続人)が遺産を取得し、他の共有者(相続人)に対して代償金を支払う分割方法
- 換価分割:遺産を売却して代金を分ける分割方法
特に遺産分割を行う際には、各相続人の要望や家庭の事情などを踏まえて、適切な分割方法を選択することが大切です。
2、現物分割のメリット
現物分割は、遺産をそのままの状態で分割するため、手続きが比較的簡単である点がメリットのひとつです。また、代償分割の際に必要な遺産の価値評価も、現物分割であれば必要ありません。
-
(1)手続きが比較的簡単
現物分割は、遺産をそのまま分けるため、手続きが比較的簡単です。
たとえば土地を現物分割する場合、分筆をして登記手続きを行うだけです。換価分割とは異なり、土地を売却する必要はないので、短期間で手続きが完了します。
現物分割は手続きがシンプルな分、遺産分割を早期に終えることができるメリットがあります。 -
(2)遺産の厳密な価値評価が不要
不動産の遺産分割について、相続人間で対立が生じやすい論点の一つが「評価」の問題です。
不動産の価値を評価する方法には、さまざまなパターンがあります。どの方法を選択するかによって、不動産の評価額は変動し、最終的な遺産分割の結果に大きな影響を与えます。そのため相続人同士の間で、不動産の評価方法について意見が対立するケースが多いのです。
たとえば代償分割の場合、不動産を取得する人が他の相続人に支払う代償金額を計算するため、不動産の評価を行う必要があります。その際、代償金を支払う側は低い評価額を主張する一方で、受け取る側は高い評価額を主張し、対立が生じることが想定されます。
これに対して現物分割の場合、不動産の厳密な価値評価を行う必要はありません。そのままの状態で、物理的に分割すればよいからです。現物分割を選択すれば、不動産の評価に関する対立の火種を一つ消すことができます。
3、現物分割のデメリット
現物分割にはメリットがある一方で、以下に挙げるデメリットも存在します。
- 平等を徹底することは難しい
- 物理的に分割できないことがある
- 土地の場合、分筆によって価値が下がることがある
-
(1)平等を徹底することは難しい
現物分割では、遺産を完全に平等に分けることは難しい部分があります。
たとえば土地を2つに現物分割する場合、どの位置に境界線を引くとしても、両方が完全に同じ土地になるわけではありません。地積(面積)はある程度揃えることができても、土地の形状・日当たり・隣家との関係性などについては、多かれ少なかれ差が生じてしまいます。
また、相続人の人数が多い場合には、すべての相続人が現物分割に参加することは難しいでしょう。
その場合、現物分割によって遺産を取得する相続人と、それ以外の相続人の間で、遺産の価値評価を含む調整を行う必要があります。金銭的にはある程度の埋め合わせが行われるとしても、やはり完全に平等な遺産分割を行うことは困難です。
徹底的に平等な形で遺産を分割したい場合は、換価分割を行うのがよいでしょう。遺産の売却代金を1円単位で分割できるため、相続人間の平等を図ることができます。 -
(2)物理的に分割できないことがある
現物分割は、すべての遺産について行えるわけではありません。物理的に分割できない遺産もあるからです。
物理的に分割できない遺産の例としては、建物が挙げられます。区分所有建物を除き、建物は全体が1つの財産として機能するため、物理的に細分化することはできません。
したがって、建物について現物分割はできず、代償分割や換価分割によって遺産分割を行うことになります。 -
(3)土地の場合、分筆によって価値が下がることがある
土地は分筆によって現物分割ができますが、分筆によって土地が細分化されると、トータルで見た土地の価値が下がってしまうことがあります。
たとえば、分筆によって土地が狭くなれば、建築できる建物の形状や用途が限定されます。その結果、広い土地に比べると坪単価が下がってしまうことがあります。
また土地の価値は、地積(面積)だけでなく形状によっても左右されます。
たとえば、あまりにも細長い土地は使い勝手が悪いため、一般的な整形地に比べると坪単価が低くなる傾向にあります。そのため、分筆によって土地を現物分割する場合は、それぞれの土地が細長くならないように境界を工夫する必要があるでしょう。
分筆によって土地が細長くなることを防ぐ方法としては、たとえば整形地と旗竿地に分けることが考えられます。しかしこの場合、旗竿地の方は取引価格が低く抑えられる傾向にある点に注意が必要です。
いずれにしても、分筆によって土地を現物分割する場合は、トータルでの土地の価値ができるだけ下がらないような境界線の引き方を検討することが大切です。
4、現物分割が適しているケースの例
現物分割のメリット・デメリットを踏まえると、以下に挙げるような場合については、遺産(特に土地)を現物分割するのに適していると考えられます。
- 広い土地がある場合
- 預貯金などの分割によりバランスがとれる場合
- 相続人全員が納得している場合
-
(1)広い土地がある場合
地積(面積)の広い土地は、比較的現物分割に適しています。分筆しても、それぞれの土地を使いやすい広さ・形状に調整しやすいからです。
地域によっては、広い土地を適度な地積(面積)に分筆することによって、トータルでの土地の価値が上がるケースもあります。その場合、土地を現物分割することが有力な選択肢となるでしょう。
ただし、相続人同士の関係性が良くない場合には、隣地同士の利用関係を巡ってトラブルになるリスクもあるので注意が必要です。 -
(2)預貯金などの分割によりバランスがとれる場合
土地を現物分割するとしても、相続人の数が多い場合は、すべての相続人に土地を取得させるのが難しいこともあります。
その場合、土地を取得しない相続人には別の遺産を与えて、相続人全体でのバランスを図ることになります。たとえば預貯金など、土地以外の遺産が豊富にある場合には、それほど困ることなく遺産を公平に分けられるでしょう。
これに対して、相続財産価値の大半を土地が占めているようなケースでは、無理なく分筆して相続人全員で土地を分けられるような場合を除き、代償分割や換価分割などを検討すべきでしょう。 -
(3)相続人全員が納得している場合
相続人全員が納得しているのであれば、どのような方法で遺産分割を行っても構いません。土地を現物分割することにより、相続人間で不平等が生じる場合であっても、特に相続人から不満が出なければ、合意に従って遺産分割を行えばよいでしょう。
ただし、多額の遺産が関係する相続においては、相続人全員による合意がすんなり得られるケースは多くありません。一部の相続人から不満が噴出して、深刻な相続トラブルに発展してしまうことがよくあります。
弁護士にご依頼いただければ、相続人の間で意見の調整を図り、円滑に遺産分割を完了できるようにサポートいたします。遺産分割協議が不調に終わった場合には、遺産分割調停・審判の手続きについても一括してご対応いたします。
遺産分割の方法・トラブルに関するお悩みは、お早めに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
相続人間で遺産を物理的に分ける「現物分割」は、土地などを遺産分割する方法の一つです。手続きが比較的簡単で、遺産の厳密な価値評価が不要となるメリットがある一方、相続人間の平等を徹底するのは難しい面があります。また土地の場合、分筆に伴う細分化によって価値が下がってしまうケースもあるので注意が必要です。
特に不動産の遺産分割方法は複数存在し、どの方法を選択するかによって結果が大きく変わるため、しばしば相続人間における対立の原因になります。不動産を含む遺産分割を円滑に行うためには、弁護士への依頼がおすすめです。
ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスは、お客さまのご希望やご家庭のご事情などを踏まえ、適切な条件による遺産分割を円滑に成立させられるようにサポートいたします。不動産の遺産分割に関するトラブルが発生し、相続人間の協議がまとまらない場合には、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています