嫡出推定制度改正でどう変わる? 離婚と産まれてくる子どもの戸籍

2024年07月05日
  • 親権
  • 嫡出推定制度改正
嫡出推定制度改正でどう変わる? 離婚と産まれてくる子どもの戸籍

鹿児島市が発表している人口動態調査によると、令和4年に離婚した夫婦の数は936組でした。離婚時には、親権や養育費など子どもに関する重要な取り決めがあることは、よく知られています。

しかし、「嫡出推定制度」についてはご存じでしょうか? これは婚姻解消後300日以内に妻が産んだ子どもを、法律上、前夫の子どもと推定する制度のことですが、さまざまな問題が指摘される制度でした。

2024年4月1日に施行された改正法では、300日以内に出産した子どもも、母親が再婚していれば、現在の夫の子と推定されるようになりました。今回は、新制度の概要や、新たに母と子に認められる「嫡出否認権」などについて、ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスの弁護士が解説します。


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1、嫡出推定制度改正とは?

嫡出(※)推定制度はなぜ改正されたのでしょうか? 改正の背景と概要を解説していきます。
※嫡出(ちゃくしゅつ)=婚姻関係にある男女に生まれた子ども

  1. (1)嫡出推定制度改正の背景

    嫡出推定制度改正の背景には4つのポイントがあります

    • ① 離婚後300日問題
    • ② 女性の再婚禁止期間
    • ③ 嫡出否認の訴えを起こせる否認権者が夫のみ
    • ④ 嫡出否認の訴えの出訴期間が短い


    詳しくみていきましょう。

    ① 離婚後300日問題
    改正前の制度では、夫婦の離婚後300日以内に産まれた子どもは前夫の子どもと推定されていました。

    しかし、この制度では、子どもの生物学上の父親が離婚後の再婚相手や恋人である場合も、前夫の子どもと推定されてしまうことになります。そのため、子どもの父親が前夫になることを防ぐために母親が出生届を提出せず、結果的に子どもが無戸籍になってしまうことが問題視されてきました。これを「離婚後300日問題」といいます。

    ② 女性の再婚禁止期間
    父親を判別することで子どもの利益・権利を守るという名目で、女性には原則100日間の再婚禁止期間が定められていました。しかし、女性だけに再婚禁止期間が設けられていることは、男女平等に反するという批判も多くありました。

    ③ 嫡出否認の訴えを起こせる嫡出否認権者が夫のみ
    嫡出推定される嫡出子との法律上の父子関係を否定するための、裁判上の手続きを「嫡出否認の訴え」といいます。

    制度改正前は、訴えを起こせる嫡出否認権者が「夫」に限定されていました。これにより、妻が子どもとの父子関係を否定することができず、結果的に①と同様に子どもが無戸籍になってしまう問題が起きていたのです。

    ④ 嫡出否認の訴えの出訴期間が短い
    嫡出否認の訴えは、「嫡出否認調停」を申し立てて行います。

    しかし、改正前は訴えを起こせる期間(出訴期間)は「夫が子どもの出生を知ってから1年以内」という短い期間で提起しなければなりませんでした。

    これにより、夫が「子どもが自分の子どもではない」と気がついた時には出訴期間を過ぎていて嫡出否認の訴えを起こせないことがありました。つまり、出訴期間があまりに短いため、夫が前妻の出産に気づけない、嫡出否認権の行使をするか判断する期間が十分にないという問題があったのです

  2. (2)嫡出推定制度改正の概要

    嫡出推定制度改正の概要は以下の通りです。

    • ① 離婚後300日以内に産まれた子どもは前夫の子どもと推定する原則は維持するが、母親が再婚後に産まれた場合は、再婚相手の子どもと推定する例外が設けられた
    • ② 女性の再婚禁止期間が廃止された
    • ③ 嫡出否認の訴えを起こせる否認権者の範囲が「子および母」にも拡大した
    • ④ 嫡出否認の訴えの出訴期間が1年から3年に延長された


    ①②については2章で、③④については3章で詳しく解説します。

2、離婚後に生まれた子どもの戸籍の扱いはどうなる?

前述の通り、制度改正によって、離婚後300日以内に産まれた子どもで、母親が再婚後に産まれた場合は、再婚相手の子どもと推定する例外が設けられました。

一方、離婚後に生まれた子どもの戸籍の扱いは以下の通りになります。

民法改正後の子どもの戸籍

上記図のように、原則は改正前と変わらず「離婚後300日以内に産まれた子どもは前夫の子ども」として前夫の戸籍に入ります。

しかし、改正によって、離婚後300日以内に産まれた場合でも、女性が再婚した後に産まれた子どもの戸籍は、再婚相手である「現夫の戸籍」に入ることになりました

なお、改正が適用される子どもは「2024年4月1日以後に産まれる子ども」に限られます。

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3、嫡出否認権とは?

嫡出否認権とは、嫡出推定される子どもとの父子関係を否定するために「嫡出否認の訴え」の手続きをする権利を指します。

この手続きをしないと、父親には血がつながらない子どもに対する扶養義務や、その子どもへの相続権が発生します。嫡出否認権の改正箇所を、詳しくみていきましょう。

  1. (1)嫡出否認権を持つ者の範囲が「子および母」にまで拡大

    改正前は嫡出否認権を持つ者は「夫」に限定されていましたが、改正後は「子および母」にも嫡出否認権が認められることになりました。

    子どもや母親から前夫との父子関係を否定できるようになったことで、生物学上と法律上の父子の不一致を、より解消しやすくなったといえます。

  2. (2)嫡出否認の訴えの出訴期間が「3年」に延長

    改正前は嫡出否認権の行使をするか否か判断する期間が十分に与えられていないことが問題視されていましたが、改正後、出訴期間が「3年」に延長されました。

    なお、「夫」と「子および母」では、以下の通り出訴期間の起算点が異なります

    • :「子どもの出生を知った時」から3年以内
    • 子および母:「出生の時」から3年以内


    ただし、「子ども」については例外があります。子どもと前夫の同居期間が3年を下回る場合、子どもは21歳になるまで嫡出否認の訴えを提起することができるのです。

    なお、原則、改正が適用されるのは「2024年4月1日以後に産まれる子ども」に限られますが、施行日から1年間に限り「子および母」は「施行日前に産まれた子ども」についても否認できます。

4、妊娠出産前後の離婚を検討する際留意すべきこと

妊娠出産の前後で離婚を検討する時、どのようなことに気をつけなければいけないのでしょうか? ケースごとにご紹介します。

  1. (1)自身が有責配偶者の場合

    有責配偶者は離婚原因を作って夫婦関係を破綻させた配偶者のことです。民法770条には裁判になった時に離婚原因として認められる「法定離婚事由」が5つ定められていますが、「不貞行為」はこれに該当します。

    では、たとえば自身が不貞行為をして妊娠し、そろそろ出産を控えているとしましょう。この時何に気をつけなければならないのでしょうか?

    注意点は以下の通りです

    • ① 有責配偶者からの離婚請求は認められない可能性が高い
    • ② 慰謝料を請求される可能性がある
    • ③ 嫡出否認の訴えを起こさなければならない場合がある


    詳しくみていきましょう。

    ① 有責配偶者からの離婚請求は認められない可能性が高い
    まず気をつけたいのは、「有責配偶者から離婚することは難しい」ということです。

    もちろん話し合いで離婚に同意してもらえれば、「離婚協議」が成立し離婚することができます。しかし、不貞行為が原因である場合、離婚協議が決裂して裁判上の手続きである「離婚調停」や「離婚裁判」に発展する可能性もあるのです。

    裁判を介した場合、有責配偶者からの離婚請求は原則として認められません。離婚が認められるためには「長期間の別居」や「未成熟の子どもがいないこと」、「離婚後に配偶者が困窮しないこと」などの条件を満たす必要があるのです。

    仮にそれが認められて裁判で離婚が成立したとしても、それまで長い時間がかかります。
    そのため、離婚の成立が難しいと感じる場合は、早めの段階で弁護士に依頼をすることをおすすめします。弁護士に依頼をすれば、相手との交渉や説得をすべて任せることができます。感情的になりやすい離婚協議の場でも、弁護士が入ることで冷静な話し合いができ、交渉を進めることも期待できるでしょう。

    ② 慰謝料を請求される可能性がある
    自身が有責配偶者、たとえば不貞行為や暴力行為をしていた場合は、損害賠償請求として「慰謝料請求」をされる可能性があります。離婚原因をご自身が作ったのであれば、相手の配偶者に対して精神的苦痛を与えてしまっているからです。

    なるべく早く離婚を成立させたい場合、相手に納得してもらうためにも慰謝料を支払う方が賢明でしょう。ただし、相場よりも高額な金額を請求される可能性もあります。その場合は弁護士に相談してみましょう。弁護士が代理で交渉することで、適切な金額に減らしてもらえる可能性があります。

    ③ 嫡出否認の訴えを起こさなければならない場合がある
    たとえば有責配偶者になった理由が「不貞行為」で、結果妊娠した子どもの父親が配偶者とは別の男性だったケースがあるとしましょう。再婚後に子どもが産まれた場合、子どもの戸籍は「再婚相手」の戸籍に入ります。その場合は特に問題は起きません。

    しかし、再婚前に産まれた場合、子どもの生物学上の父親は別の男性であっても、子どもの戸籍は「前夫」に入ってしまいます

    前夫の戸籍に入った子どもの戸籍を抜くためには、前夫か母親、もしくは子どもが嫡出否認の訴えを起こさなければなりません。

    子どもの戸籍をすぐに前夫から抜きたい場合は、出産後スムーズに嫡出否認の訴えを起こせるように、弁護士に相談しておくとよいでしょう。

  2. (2)離婚直後に妊娠した場合

    離婚直後に妊娠すると、産まれた子どもの戸籍は、再婚相手の戸籍に、再婚をしないと前夫の戸籍に入ります

    そのため、再婚はせず、離婚から300日以内に子どもを授かった場合は、前述と同様、前夫の戸籍に入った子どもの戸籍を抜くために嫡出否認の訴えを起こしましょう。

    その際は、出産後スムーズに嫡出否認の訴えを起こせるように、あらかじめ弁護士に相談しておくことをおすすめします。

5、まとめ

嫡出推定制度が改正されたことで、再婚後に産まれた子どもの戸籍は再婚相手の戸籍に入る例外が設けられ、女性の再婚禁止期間が廃止されました。

また嫡出否認権が母子にも認められ、嫡出否認の訴えを起こせるようになったことから、今まで子どもの戸籍が前夫に入ることを防ぐために、無戸籍になっていたような子どもたちが、今後減っていくことが期待できるでしょう。

ただし、妊娠中の離婚問題や産後に嫡出否認の訴えを起こすことは、精神的にも肉体的にも大きな負担となります。負担を和らげ、早期解決をはかるためにも、まずはベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスの弁護士にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています