公示送達とは何か? 必要なケースや手続き方法をご紹介

2023年08月24日
  • 一般民事
  • 公示送達
公示送達とは何か? 必要なケースや手続き方法をご紹介

2021年に鹿児島地方裁判所で受理した裁判の件数は6254件でした。

裁判の中には、訴訟を提起しようと思っても、被告の居場所がわからず訴状を送達できないケースがまれにあります。その場合は「公示送達」を申し立てることで、民事訴訟の手続きを進めることが可能です。

今回は、公示送達を行うべき場合の例・要件・手続き、公示送達後の民事訴訟手続きの流れ、公示送達が無効となる場合などをベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスの弁護士が解説します。

1、公示送達とは?

「公示送達」とは、意思表示を到達させるべき相手方が不明な場合や、相手方の住所が不明な場合に、その意思表示が法的に到達したものとして取り扱ってもらうための送達手続きです

  1. (1)公示送達を行うべき場合の例

    公示送達は、典型的には民事訴訟(不動産明渡請求訴訟、貸金返還請求訴訟など)において、被告の居場所がわからない場合に行われます。

    民事訴訟が提起されると、裁判所が被告に対して訴状を送達します(民事訴訟法第138条第1項)。訴状の送達により、被告は初めて自らを当事者とする訴訟が提起されたことを認識できます。そのため、訴状は民事訴訟における重要かつ必須の手続きです。

    しかし、相手方の住所・居所等がわからず、裁判所による訴状の送達ができない場合があります。この場合、被告が訴訟提起を認識する機会を確保しつつ、原告の利益にも配慮して民事訴訟を進行させるために、最終的には公示送達が認められます。

    民事訴訟以外の場面では、税務署長その他の行政機関の長や、地方団体の長が送達する税金関係の書類などについて、対象者の住所・居所が明らかでない場合などに公示送達が認められています(国税通則法第14条、地方税法第20条の2)。

  2. (2)民事訴訟における公示送達の要件

    民事訴訟において公示送達が認められるのは、以下のいずれかに該当する場合です(民事訴訟法第110条第1項)。

    1. ① 当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合
      他の方法による送達ができないため、公示送達が認められます。

    2. ② 書留郵便等に付する送達をすることができない場合
      民事訴訟による送達は、以下の優先順位にしたがって行われます。書留郵便等に付する送達ができない場合は、最終手段として公示送達が認められます。
      (a)交付送達(同法第101条)
      送達を受けるべき者に書類を交付します。原則として、送達を受けるべき者の住所・居所・営業所・事務所のいずれかにおいて行われます。送達を受けるべき者で日本国内に住所等を有することが明らかでない者に対する送達は、送達を受けるべき者に出会った場所に送達することもできます(同法第105条)。
      (b)補充送達・差置送達(同法第106条)
      送達をすべき場所において送達を受けるべき者に出会わないときは、使用人その他の従業者または同居者であって、書類の受領について相当のわきまえのあるものに書類を交付できます。
      送達を受けるべき者等が正当な理由なく書類の受領を拒んだときは、その書類を送達すべき場所に差し置くことができます。
      (c)書留郵便等に付する送達(付郵便送達、同法第107条)
      補充送達・差置送達ができない場合は、裁判所書記官が書留郵便等により発送することで、発送時点で送達の効力が生じます。
      (d)公示送達
      書留郵便等に付する送達ができない場合は、公示送達が認められます。

    3. ③ 外国においてすべき送達について、民事訴訟法第108条の規定による送達ができない場合
      外国においてすべき送達は、裁判長がその国の管轄官庁、またはその国に駐在する日本の大使・公使・領事に嘱託して行うのが原則です(同法第108条)。
      この方法による送達ができない場合には、公示送達が認められます。

    4. ④ 民事訴訟法第108条の規定により、外国の管轄官庁に嘱託を発した後6か月を経過しても、その送達を証する書面の送付がない場合
      外国の管轄官庁が書類の送達を遅滞している場合や、送達に関する協力を全く得られない場合などには、嘱託から6か月を経過すると公示送達が認められます。
  3. (3)公示送達の手続き・方法

    民事訴訟における1回目の公示送達は、原則として当事者の申立てにより、裁判所書記官が行います(民事訴訟法第110条第1項)。

    公示送達の申立先は、相手方が所在不明となる直前の住所地を管轄する簡易裁判所です。

    <公示送達の申立ての必要書類>
    • 通知書(原本1部、コピー4部)
    • 意思表示の公示送達申請書
    • 予納郵便切手(1048円分)
    • 資格証明書(申立人または相手方が法人の場合。発行から3か月以内のもの)
    • 相手方(法人の場合は代表者)の住民票または不在住証明書等(発行から3か月以内のもの)
    • 戻ってきた郵便物(封筒、書類)
    • 調査報告書(現地調査などの住居所調査の結果報告)
    • 到達証明申請書


    同一の当事者に対する2回目以降の公示送達は、裁判所書記官の職権により行われます(同条第3項)。ただし、外国の管轄官庁に嘱託を発した後6か月を経過しても、その送達を証する書面の送付がない場合の公示送達については例外で、2回目以降も申立てが必要です。

    公示送達は、裁判所書記官が送達すべき書類を保管し、いつでも送達を受けるべき者に交付すべき旨を裁判所の掲示場に掲示する方法で行われます(同法第111条)。

    原則として、掲示を始めた日から2週間が経過すると、公示送達の効力が生じます(同法第112条第1項本文)

    ただし、同一の当事者に対する2回目以降の公示送達については掲示開始の翌日に、外国においてすべき送達の公示送達については掲示開始の日から6週間経過後に効力が生じます(同項但し書き、同条第2項)。

2、公示送達後の民事訴訟手続きの流れ

訴状について公示送達の効力が発生した場合、通常どおり民事訴訟の口頭弁論期日が開催され、判決に至ります。

  1. (1)口頭弁論期日

    口頭弁論期日では、本来であれば原告と被告が互いに主張・立証(反証)を展開します。しかし公示送達が行われるケースでは、被告が口頭弁論期日に出席することはまれです。

    民事訴訟では原則として、被告が2回以上口頭弁論期日を欠席した場合は「擬制自白」が成立し、原告の請求が全面的に認められます(民事訴訟法第159条第3項本文)。

    しかし公示送達がなされた場合には、例外的に擬制自白が成立しません(同項但し書き)。そのため、原告は口頭弁論期日において、請求原因の主張・立証を行う必要があります。

  2. (2)判決の言渡し・確定

    原告による請求原因の立証の成否が明らかになった段階で、裁判所は口頭弁論期日を終結させて判決を言い渡します。

    判決に不服がある場合は控訴が認められますが、被告が欠席している場合は、控訴が申し立てられることは通常ありません

    控訴期間は、判決書の送達を受けた日から2週間です(民事訴訟法第285条)。判決書は裁判所の職権によって公示送達され、掲示日の翌日に送達の効力が生じます(同法第110条第3項、第112条第1項)。

    したがって、公示送達による判決書の掲示日の翌日から起算して2週間が経過すると、判決が確定します。判決確定後は、確定判決を債務名義として強制執行を申し立てることができます(民事執行法第22条第1号)。

3、公示送達が無効になる場合もある

民事訴訟法上の要件を欠いた公示送達は無効です。公示送達が無効である場合、送達をやり直さなければなりません。

たとえば以下の裁判例では、実際に公示送達が無効と判断されています。

  1. ① 東京高裁 平成21年1月22日判決
    被告会社の本店所在地への特別送達が返送され、被告会社が営業するデパート内の商品販売コーナーへの送達が裁判所書記官によって不適切と判断されたために、訴状等の公示送達がなされた事案です。

    東京高裁は、デパート内の商品販売コーナーが被告会社の営業所に該当し、調査をすれば同コーナーへの送達ができることが容易に判明したであろうことを指摘し、公示送達を無効と判示しました。

  2. ② 札幌高裁 平成25年11月28日判決
    被告会社の本店所在地と代表者住所地宛の特別送達がいずれも返送されたため、訴状等の公示送達がなされた事案です。

    札幌高裁は、被告会社の代表者が前住所に居住していた可能性を否定できないことを指摘しました。その上で、原審担当の裁判所書記官が執行官送達等の方法によって前住所における居住の有無を再度確認する措置を講ずべきであったとして、公示送達を無効と判示しました。


上記の各裁判例では、いずれも裁判所書記官による判断ミスが原因で、公示送達が無効となっています。

結論として各高等裁判所は、控訴申立て自体は適法なものであるとした上で、原判決を取り消して差し戻し、無効な公示送達を受けた者の救済を図りました。

4、法律問題に関するお悩みは弁護士にご相談を

公示送達を含めて、民事訴訟その他の法律問題については、一般の方にはなじみのないルールが数多く定められています。

複雑な法律問題について適切に対処するためには、弁護士への相談がおすすめです。弁護士は、個々のご事情やお悩みの内容を丁寧にお伺いし、具体的な解決策をアドバイスいたします。

法律問題に関するお悩みのある方は、お早めに弁護士までご相談ください。

5、まとめ

公示送達は、民事訴訟において他の方法による送達ができない場合などに行われます。相手方の住所がわからない場合などにも、最終的に訴状等の公示送達を申し立てれば、民事訴訟の手続きを進めることが可能です。

ベリーベスト法律事務所は、民事訴訟その他の法律問題に関するご相談を随時受け付けております。法律トラブルへの対処法や、民事訴訟など法的手続きの進め方がわからない方は、ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスにご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています