労災として従業員から訴えられた場合、時効はあるのか?

2022年12月22日
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労災として従業員から訴えられた場合、時効はあるのか?

鹿児島労働局が公表している労災に関する統計資料によると、令和3年に鹿児島労働局管内で発生した労災件数は、2256件であり、前年よりも156件増加しています。

雇用している労働者が労災事故に遭った場合は、会社に責任が生じ、労働者から損害賠償請求をされる可能性があります。もしも労働者から損害賠償請求をされた場合にはどのように対応したらよいのでしょうか。また、労災発生から長期間立っている場合には、時効を主張することができるのでしょうか。

今回は、労災の被害にあった労働者から訴えられた場合の会社の対応について、ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスの弁護士が解説します。

1、一口に損害賠償と言っても、問われる法的責任によって時効は違う

まずは、労災において損害賠償責任が問われる3つの条件(法的根拠)と、時効についてみていきましょう。

  1. (1)労災による損害賠償請求の法的根拠とは?

    労災を原因として労働者が会社に対して損害賠償請求をする場合には、主に

    • 債務不履行
    • 不法行為
    • 運行供用者責任

    のいずれかに基づいて請求をします。

    以下では、それぞれどのような内容の責任なのかについて説明します。

    ① 債務不履行責任(安全配慮義務違反)
    会社は、労働契約上の義務として、労働者が安全に働くことができる環境を整備する義務を負っています。この義務を「安全配慮義務」といいます。

    会社が安全配慮義務を怠ったことによって労災が発生した場合、会社は、安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償責任を負います。

    安全配慮義務違反が認められやすいケースとしては、以下のケースが挙げられます。

    • 会社の教育体制が不十分であったために労災事故が生じた
    • 高所作業中に転落防止措置を指示しなかったために労働者が転落した
    • 会社が提供した機械に巻き込まれて労働者が負傷した


    ② 不法行為(使用者責任)
    労働者が故意または過失によって、第三者に損害を与えた場合には、当該労働者だけでなく、会社も責任を負わなければなりません。このような会社の責任を「使用者責任」といいます。

    使用者責任は、会社は、労働者を雇って利益をあげていることからその利益に基づき損害を賠償すべきという考え方(報償責任)や危険な行為によって利益をあげていることから危険を支配する者が責任を負うべきという考え方(危険責任)を根拠としています。

    使用者責任を問われた場合には、会社が相当の注意を払ったことなどを立証することによって責任を免れることができるとされています。しかし、実際に会社の免責が認められるケースはあまりないため注意が必要です

    ③ 運行供用者責任
    運行供用者責任とは、「運行供用者」がその運行によって第三者に損害を与えた場合の責任をいいます。

    運行供用者とは、自動車の運行を支配して、利益を得る立場にある人のことをいい、社用車を運転中に労働者が交通事故を起こした場合には、運行供用者である会社も責任を負わなければなりません。

  2. (2)損害賠償請求の時効はどのくらい?

    労働者の損害賠償請求権は、一定期間が経過すると時効によって消滅します。

    時効期間の経過後に労働者から請求があったとしても、会社は、時効を援用することによって、賠償金の支払いを免れることが可能です

    このような損害賠償請求権の時効期限は、労働者がどのような法的根拠に基づいて損害賠償請求をしているのかによって異なってきます。

    ① 債務不履行(安全配慮義務)の場合
    債務不履行に基づく損害賠償請求であった場合には、労働者が権利を行使することができることを知ったときから5年または権利を行使することができるときから20年で時効になります(民法166条1項、167条)。

    ただし、労働者との間の労働契約が令和2年4月1日よりも前に締結されている場合には、改正前民法が適用されますので、権利を行使することができるときから10年で時効になります。

    ② 不法行為(使用者責任)の場合
    不法行為に基づく損害賠償請求であった場合には、労働者が損害および加害者を知ったときから5年または不法行為のときから20年で時効になります(民法724条、724条の2)。

    ただし、労働者との間の労働契約が令和2年4月1日よりも前に締結されている場合には、改正前民法が適用されますので、労働者が損害および加害者を知ったときから3年で時効になります。

    ③ 運行供用者責任の場合
    運行供用者責任に基づく損害賠償請求であった場合には、民法の規定に従うとされています。したがって、不法行為の場合と同様、時効期間は、労働者が損害および加害者を知ったときから5年または不法行為のときから20年となります。


2、労働者から訴えられた場合の交渉・解決方法

労働者から労災を理由する損害賠償請求を受けた場合には、会社としては以下のような対応が必要になります。

  1. (1)労働者との話し合い

    労災保険による補償を受けていたとしても、労災保険給付では不足する部分がある場合には、労働者から会社に対して損害賠償請求がなされることがあります。

    労働者から労災を理由する損害賠償請求をされた場合には、まずは労働者と直接話し合いを行います。会社として労災事故の責任がないと考える場合には、どのような理由でそのように考えるのかを労働者に丁寧に説明して納得を得るように努めましょう

    また、会社の責任を認める場合には、労働者が請求する金額を精査した上で、会社が支払うべき金額や支払い方法などを決めていく必要があります。

    労働者との話し合いによって合意が成立した場合には、示談書を作成して対応は終了となります。

  2. (2)労働審判

    労働者との話し合いで解決できない場合は、労働者によって労働審判の申立てがなされる場合があります。

    労働審判とは、会社と労働者との間で生じたトラブルについて、労働審判官1人と労働審判委員2人によって構成される労働審判委員会によって審理し、解決を図る裁判所の手続きです。労働審判は、原則として3回の期日で審理を終了することになっていますので、裁判に比べて迅速な解決が期待できる手続きといえます。

    労災による損害賠償請求の事案では主に、労働者の側から労働審判の申立てがありますので、会社側が労働審判の手続きで負担する費用はありません。裁判所から労働審判の申立て書が届いたら、会社側の反論を答弁書にまとめて期限までに提出するようにしましょう。

  3. (3)裁判

    労働審判に不服がある場合には、異議申立てをすることによって訴訟手続きに移行します。また、労働者との交渉が決裂した場合には、労働審判を経ることなく訴訟提起されることもあります。

    労働者によって訴訟提起がなされると、裁判所から訴状の副本などが送られてきますので、会社側は訴状の内容を精査して、訴状記載の内容についての認否および反論を答弁書にまとめて裁判所に退出します。

    裁判では、双方の主張反論や立証を踏まえて最終的に裁判官が労働者の損害賠償請求を認めるかどうか、認める場合にはどの程度の金額を認めるのかなどを判断しますが、事案によっては和解によって解決することもあります。

3、労働者との交渉時にやってはいけないこと

労働者と交渉をする際には、以下のようなことをしないように注意しましょう。

  1. (1)労働者からの請求を無視する

    労働者から労災を理由とする損害賠償請求を受けた場合には、労働者の請求を無視してはいけません。会社から請求を無視された労働者としては、会社の対応に不満を抱き、交渉で解決することができる事案であっても応じてもらうことができず、解決まで長期化するリスクがあります。

  2. (2)証拠を出さない

    労働者から損害賠償請求を受けた場合には、会社としても真摯(しんし)に対応することが必要です。労働者の主張に対して反論をする場合には、単に事実を述べるだけではなく、それを裏付ける証拠を提出するようにしましょう。客観的な証拠があれば、労働者が納得する可能性も高まります。

  3. (3)労働者の請求にそのまま応じる

    労働者からの損害賠償請求に対応するのが面倒だからという理由で、労働者の請求にそのまま応じるというのも避けなければなりません。

    労働者による請求額は必ずしも適正とは限りませんので、会社側でも労働者からの請求内容はしっかりと精査する必要があります。不当な請求が含まれている場合には、支払いを拒絶することも大切です。

  4. (4)(弁護士が代理人となっている場合)本人に連絡を取ろうとする

    労働者からの損害賠償請求の対応を弁護士に任せている場合には、直接労働者本人に連絡をすることは控えましょう。弁護士が知らないところで労働者と接触してしまうと、かえって話がこじれ、その後のやりとりに支障がでる可能性があります。すべての窓口を弁護士に一本化し、会社からは労働者本人とは連絡をとらないよう注意しましょう。

4、弁護士を依頼するメリットとは

労災を理由とする損害賠償請求など労働問題でお悩みの場合には、弁護士へ依頼することをおすすめします。

  1. (1)すべての対応を任せることができる

    弁護士に労働者とのトラブルの対応を依頼すれば、すべての対応を弁護士に任せることができます。不慣れな労働者との交渉に時間を取られてしまうと、本来の業務にも支障が生じてしまいますが、弁護士に依頼をすればそのような事態を回避することができます

    また、トラブルの当事者同士では、どうしても感情的になってしまいスムーズな話し合いが難しいこともありますが、弁護士が窓口になることによってお互いに冷静な話し合いを進めることができ、スムーズな解決が期待できます。

  2. (2)顧問弁護士を利用すればトラブルの予防も可能

    一度トラブルが生じてしまうと、弁護士が間に入ったとしても多かれ少なかれ会社に損害が生じる可能性は高くなります。しかし、未然に労働者とのトラブルを防ぐことができれば、対応に時間や手間を取られることもありません。

    労働者とのトラブルを未然に防ぐためには、顧問弁護士の利用がおすすめです。ベリーベスト法律事務所の「リーガルプロテクト」なら、月額3,980円で必要に応じて顧問弁護士サービスを利用することができます。

    会社の労働状況を理解している顧問弁護士であれば、労働問題を未然に防ぐ提言はもちろん、すぐに相談することができ、トラブル発生時には迅速に収拾することが可能です。

5、まとめ

労働者との間のトラブルは、顧問弁護士を利用することによって、未然に防止することができる可能性があります。ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスでは、企業の規模やニーズに応じて選ぶことができる複数のプランをご用意していますので、これまで費用がネックで顧問弁護士の採用を見送っていた企業でも気軽に利用することができます。ぜひこの機会にベリーベスト法律事務所の顧問弁護契約をご利用ください。

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