未払い残業代で和解したときの合意書でひな形のままではNGとなる理由
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2020年度に鹿児島県内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働に関する相談は1万3740件でした。
従業員(労働者)から未払い残業代を請求された場合、会社は正しい残業代を計算した上で、客観的事実を踏まえて穏便な解決を図りましょう。また、和解合意書を作成する際には、インターネット上のひな形をそのまま利用するのではなく、弁護士のチェックを受けることをおすすめします。
今回は、従業員から未払い残業代を請求された場合の対応や、和解合意書の作成時にひな形を利用することの問題点などについて、ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスの弁護士が解説します。
出典:「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況」(鹿児島労働局)
1、従業員に未払い残業代を請求されたら確認すべきこと
従業員に未払い残業代を請求された場合、会社としては以下の事項を確認・検討しましょう。
- ① 残業時間を把握する
- ② 正しい残業代を計算する
- ③ 和解方針を決める
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(1)残業時間を把握する
従業員による未払い残業代請求の当否を判断するに当たっては、まず実際の残業時間を把握する必要があります。勤怠管理システムの記録や、従業員が提出してきた残業の証拠などから、会社として把握できる残業時間がどの程度であるかを確認しましょう。
なお、後に残業代の金額を計算するため、残業時間は以下の種類に区分して把握する必要があります。
(a)法定内残業
所定労働時間を超えるものの、法定労働時間※は超えない部分の残業時間です。
(※法定労働時間:原則として1日当たり8時間、1週間当たり40時間)
(b)時間外労働
法定労働時間を超える部分の残業時間です。
(c)休日労働
法定休日における労働時間です。
1週間のうち、法定休日は1日のみです。それ以外の休日における労働は、時間外労働などの扱いとなります。
(d)深夜労働
午後10時から午前5時までの時間帯における労働時間です。法定内残業・時間外労働・休日労働と重複する場合もあります。 -
(2)正しい残業代を計算する
残業時間が把握できたら、以下の計算式によって正しい残業代を計算します。
残業代=1時間当たりの基礎賃金※×割増賃金率×残業時間数
(※1時間当たりの基礎賃金=基礎賃金÷月平均所定労働時間)
基礎賃金は、給与計算期間中に支給したすべての賃金から、以下の手当を除外した金額です。
- 時間外労働手当、休日手当、深夜手当
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 一か月を超える期間ごとに支払われる賃金
割増賃金率は、以下のとおりです。
法定内残業 割増なし 時間外労働 25%以上(50%以上※) 休日労働 35%以上 深夜労働 25%以上 時間外労働かつ深夜労働 50%以上(75%以上※) 休日労働かつ深夜労働 60%以上
※月60時間超の時間外労働に適用される割増賃金率。ただし2023年3月までは、中小事業主(中小企業)については適用除外
上記の方法によって計算した残業代の金額が、実際に支給した残業代を上回っていれば、その差額が会社として把握する未払い残業代の金額です。
会社と従業員の間で、未払い残業代の金額について、どの程度認識のズレがあるのかも確認しておきましょう。 -
(3)和解方針を決める
未払い残業代の金額が計算できたら、従業員との間でどのような内容の和解を目指すかを検討しましょう。
会社として把握する未払い残業代については、労働審判や訴訟でも支払いを命じられる可能性が高いので、基本的には支払う方針をとるべきです。
一方、従業員が主張する金額との差額分については、早期解決のメリットを考慮してどこまで譲歩できるかを決めておくとよいでしょう。
2、未払い残業代に関する企業のNG対応
従業員から未払い残業代請求を受けた企業は、前述のとおり、正確な残業代を計算した上で今後の対応を検討すべきです。
これに対して、以下のような対応はトラブルを拡大する可能性が高いため、決して行ってはなりません。
- ① 従業員の請求を無視する
- ② 従業員を不当解雇する
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(1)従業員の請求を無視する
従業員の請求に対して応答せず、無視を決め込んでしまうこと得策ではありません。交渉で早期に解決できる可能性を放棄し、労働審判の申立てや訴訟の提起を誘発してしまう行為だからです。
会社としては、ひとまず従業員との交渉によって早期解決を図ることをおすすめです。 -
(2)従業員を不当解雇する
未払い残業代を請求してくる従業員を厄介者扱いして、一方的に解雇してしまうのは非常に危険です。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には無効となります(労働契約法第16条)。これを「解雇権濫用の法理」といいます。
残業代請求そのものは、賃金債権の行使にすぎないため、原則として会社に対する非違行為とはいえません。したがって、残業代請求をしたことを理由とする解雇は、解雇権濫用の法理に抵触して無効となる可能性がきわめて高いです。
未払い残業代の問題に加えて、不当解雇に関する紛争を誘発しないためにも、従業員を安易に解雇することは避けましょう。
3、未払い残業代に関する和解手続きと留意点
未払い残業代に関する労使紛争を解決するには、まず交渉を経て和解合意書の締結を図りましょう。
和解成立の見込みがなければ、労働審判や訴訟によって解決を目指します。
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(1)残業代の支払い交渉・和解合意書の締結
残業代の支払い交渉に当たり、会社としては、会社側の認識する金額の限度で支払いに応じるというのが基本的なスタンスです。ただし、従業員側が増額を要求してきた場合には、早期解決の観点からある程度譲歩することも考えられます。
いずれにしても、客観的な残業時間を踏まえながら、合理的な条件で和解をまとめられるように交渉を進めましょう。
和解交渉がまとまったら、従業員との間で和解合意書を締結しましょう。和解合意書に定めるべき事項については、後述します。 -
(2)和解が成立しなければ労働審判・訴訟
和解交渉がまとまらなければ、労働審判・訴訟による解決を目指しましょう。
(a)労働審判
裁判所にて非公開で行われる、労使紛争を解決するための手続きです。審理が原則として3回で終結するため、早期解決が期待できます。ただし、労働審判に異議が申し立てられた場合には、自動的に訴訟へ移行します。
(b)訴訟
裁判所の公開法廷で行われる紛争解決手続きです。裁判所が判決によって、紛争解決の結論を示します。ただし、途中で和解により終了することもあります。
労働審判・訴訟は専門的な手続きであり、法的な観点から厳密に主張を展開する必要がありますので、弁護士への相談をおすすめします。
4、ネットのひな形も利用可能だが、弁護士のチェックで万全に
未払い残業代に関する和解合意書は、インターネット上にもひな形がアップされています。
和解合意書のひな型に掲載されている主な内容は、
- 金額や入金日など「和解金」の詳細
- 和解金支払い後は、異議申立や請求をしない等を示した「清算条項」
- 第三者へ公言しない等を示した「秘密保持」
などです。
なお、労使紛争を終局的に解決するためには、ひな形をそのまま用いるのではなく、弁護士のチェックを受けた上で締結する方が安心です。インターネット上のひな形は手軽に利用できるので便利ですが、会社と従業員の間の具体的な合意内容に沿っているとは限りません。
そのため、ひな形をベースとして利用する場合でも、追加・修正すべき条項がないか、念のため弁護士のチェックを受けることをおすすめします。
5、まとめ
従業員から未払い残業代請求を受けたら、会社としても正確な残業代を計算した上で対応を検討し、合理的な条件による和解を目指しましょう。
未払い残業代に関する和解合意書は、インターネット上のひな形を利用することもできますが、実態に合わせて調整するため弁護士のチェックを受けるのが安心です。
ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスでは、契約書・合意書等のチェックにも対応している顧問弁護士サービスをご提供しております。各企業のニーズに合わせてご利用いただけますので、ぜひ一度ご相談ください。
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