有期雇用者の育児休業中に雇止めできる? 判断基準を弁護士が解説
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2022年度に鹿児島県内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働に関する相談は1万3602件でした。
有期雇用労働者(契約社員など)を契約満了に伴って退職させることは「雇止め」と呼ばれ、解雇とは異なります。有期雇用労働者の雇止めは育児休業(育休)中でも認められるのが原則ですが、雇止めの理由によっては無効と判断されるおそれがあるので注意が必要です。弁護士のアドバイスを受けながら、有期雇用労働者の適切な取り扱いを検討しましょう。
本記事では、育児休業中における有期雇用労働者の雇止めなどについて、ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスの弁護士が解説します。
出典:「令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況」(鹿児島労働局)
1、妊娠・出産を理由とする雇止めは違法の可能性が高い
期間の定めがある雇用契約を締結する労働者(=有期雇用労働者)について、期間満了をもって雇用契約を更新せず打ち切ることを「雇止め」といいます。
これに対して、使用者が期間の途中で雇用契約を終了させること、および期間の定めがない雇用契約を終了させることは「解雇」といいます。
解雇と比較すると、雇止めに関する規制は緩やかであり、比較的幅広く適法と認められます。
ただし、雇止めはどのような理由でも認められるわけではありません。差別的な理由による雇止めは、違法と判断される可能性があります。
特によく問題になるのが、妊娠や出産を理由とする雇止めです。
男女雇用機会均等法では、女性労働者の妊娠・出産を理由として、解雇その他の不利益な取り扱いをしてはならない旨を定めています(同法第9条第3項)。
雇止めは労働者に対する不利益な取り扱いに当たるため、妊娠・出産を理由とする場合は男女雇用機会均等法違反となる可能性があります。
有期雇用労働者の雇止めを行う際には、その合理的な理由を説明できるようにしておきましょう。
2、有期雇用労働者でも育児休業は取得可能
育児・介護休業法では、子どもを養育する労働者が利用できる育児休業の制度を定めています。
有期雇用労働者であっても、一定の要件を満たせば育児休業を取得することができます。
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(1)有期雇用労働者が育児休業を取得できる要件
育児休業を取得できるのは、原則として以下のいずれかに該当する労働者です(育児・介護休業法第5条第1項)。
- ① すべての無期雇用労働者(正社員)
- ② 子が1歳6か月に達するまでに、労働契約の期間が満了することが明らかでない有期雇用労働者
- ※有期労働契約が更新される場合は、更新後の期間について判定します。
有期雇用労働者でも、子が1歳6か月に達するまでに、労働契約の期間が満了することが明らかでない場合には、原則として育児休業を取得できます。
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(2)育児休業を取得できないケース
子が1歳6か月に達するまでに、労働契約の期間が満了することが明らかな場合には、育児休業を取得できません。
たとえば、子どもが生まれた時点で雇用契約の期間が1年間しか残っておらず、契約更新は行わない旨が契約上明記されている場合には、育児休業の取得対象外となります。
また、以下のいずれかに該当する労働者については、労使協定によって育児休業の取得対象外とすることが認められています(育児・介護休業法第6条第1項、同法施行規則第8条)- ① 雇用期間が1年に満たない労働者
- ② 育児休業申出があった日から起算して1年以内に、雇用関係が終了することが明らかな労働者
- ③ 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
有期雇用労働者が上記のいずれかの事由に該当し、かつ労使協定によって育児休業の取得対象外とされている場合には、育児休業の取得が認められません。
これに対して、育児休業に関する労使協定が締結されていない場合や、労使協定において育児休業の取得要件を変更する定めがない場合には、育児・介護休業法に基づく原則的な要件が適用されます。
たとえば、有期労働契約の期間が2年半残っている一方で、雇い入れからは半年しか経過していないとします。
この場合、労使協定によって育児休業の取得対象外とされることはありますが、労使協定の定めがない場合には、育児・介護休業法に基づく要件を満たしているので育児休業を取得可能です。
3、育児休業中に契約期間が満了する場合、雇止めは認められるか?
育児休業中に契約期間が満了する労働者については、原則として雇止めを行うことができます。
ただし、雇止めの理由が不合理である場合は違法と判断されるおそれがあるほか、「雇止め法理」や「無期転換ルール」によって違法となることもある点に注意が必要です。
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(1)契約期間満了に伴う雇止めは、育児休業中でも原則可能
雇止めは、契約期間の満了によって雇用契約を終了させるものであるため、契約上予定されている行為といえます。
したがって原則的には、使用者は雇用契約の定めに従い、任意の判断で雇止めを行うことができます。
育児休業中の労働者についても、通常の労働者と同様に、契約期間満了に伴う雇止めは原則として可能です。 -
(2)契約更新があり得る場合は、判断基準が問題になる
ただし、雇用契約の締結に当たって更新があり得る旨を労働者に明示している場合には、雇止めの判断に至った理由が問題になることがあります。
特に、出産・育児や育児休業の取得を理由とする雇止めは、公序良俗違反(民法第90条)等によって無効と判断される可能性があるので注意が必要です。
なお、使用者は労働者から雇止めの理由に関する証明書を請求されたときは、遅滞なく証明書を交付しなければなりません(有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準)。
育児休業中の労働者について雇止めを行う際には、その合理的な理由を説明できるようにしておきましょう。 -
(3)雇止め法理によって、雇止めが違法となることがある
労働契約法第19条では「雇止め法理」によって、一定の要件を満たす労働者の雇止めを制限しています。
雇止め法理とは、有期雇用労働者の雇用継続・契約更新への期待を保護するためのルールです。以下の要件をすべて満たす場合には、有期労働契約が従前と同一の条件で更新されたものとみなされます。- ① 以下のいずれかに該当すること
(a)有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあり、雇い止めが解雇と社会通念上同視できること
(b)有期労働契約の更新に対する労働者の期待に合理的な理由があること - ② 契約期間の満了日までに、または契約期間の満了後遅滞なく、労働者が使用者に対して契約更新の申し込みをしたこと
- ③ 使用者が契約更新の申し込みを拒絶することが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないこと
雇止め法理が適用される場合には、使用者による雇止めは認められません。
- ① 以下のいずれかに該当すること
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(4)無期転換ルールが適用される場合には、雇止めは認められない
同一の労働者の下で有期労働契約が更新されて通算契約期間が5年を超える労働者は、「無期転換ルール」(労働契約法第18条)の適用を受けることができます。
無期転換ルールに基づき、労働者が使用者に対して契約期間の満了日までに無期労働契約への転換を申し込んだ場合には、使用者はその申し込みを承諾したものとみなされ、有期労働契約が自動的に無期労働契約へと転換されます。
たとえば、1年契約の場合には5回更新されて6回目以降の契約に至っている場合、3年契約の場合には1回更新されて2回目以降の契約に至っている場合、その契約(1年契約だと6回目以降、3年契約だと2回目以降)の期間中に、労働者が無期労働契約への転換を使用者に申し込めば、使用者はそれを承諾したものとみなされ、その契約の満了の翌日を就労の始期とする無期労働契約が申込みの時点で成立することになります。
無期転換ルールに基づく無期労働契約への転換がなされた場合には、使用者が雇止めを行うことはできません。
4、人事労務に関するご相談は弁護士へ
労働者の雇止めを含めて、企業における人事労務の取り扱いについては、弁護士にアドバイスを求めることをおすすめします。
弁護士に相談すれば、会社としての対応が法的に問題ないかを確認できるため、コンプライアンス上のリスクを防止できます。
また、労働者との間でトラブルが発生した際にも、事前に弁護士へ相談していればスムーズに対応を依頼できるので安心です。
企業の労務管理に関するお悩みは、お早めに弁護士へご相談ください。
5、まとめ
有期雇用労働者でも、一定の要件を満たせば育児休業の取得が認められます。
育児休業中に契約期間が満了する労働者につき、会社が雇止めを行う場合には、その理由を合理的に説明できるようにしておかなければなりません。出産や育児休業の取得を理由とする雇止めは、違法・無効と判断されるおそれがあります。
また、雇止めの理由にかかわらず、無期転換ルールや雇止め法理の適用により、雇止めが無効となるケースもあるので注意が必要です。
雇止めを適法に行うことができるかどうかは、具体的な状況によって異なるため、弁護士のアドバイスを求めましょう。
ベリーベスト法律事務所は、企業の労務管理に関するご相談を随時受け付けております。
雇止めや育児休業に関する取り扱いについてお悩みの企業は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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