【企業向け】協調性がないことを理由に解雇することは可能なのか?
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鹿児島県内には、7万を超える事業所があり、約66万人が就業しています(2021年6月1日時点)。
従業員の雇用維持は事業所にとっての命題といえますが、なかには従業員の問題行動に困っているというケースもあるでしょう。たとえば、協調性がなく社内の士気を落とす、チームワークを乱すなどの場合です。
今回は、協調性がない社員の実例、協調性がない社員を解雇できるか、過去の裁判例などを踏まえて、協調性のない社員に対する適切な対応方法をベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスの弁護士が解説します。
出典:「令和3年経済センサス」(総務省統計局)
1、協調性のない社員とは?
そもそも、協調性がない社員とは、どのような社員をいうのでしょうか?
一般にビジネスの場における「協調性」とは、自分とは異なる考え方・立場・職分などに配慮し、互いに協力して、共通の目標・目的の実現に向けて職務を遂行する能力を指します。
そして、このような協調性がない社員の特性としては、以下のような特性が挙げられるでしょう。
- 自己中心的な行動
- コミュニケーション(報連相)がとれない
- 決められたルール、社内規定を破る
- チームでの共同作業ができない
- 批判的、否定的な態度を繰り返す
2、協調性がない社員を解雇することはできる?
それでは、協調性がない社員を協調性がないことを理由に解雇することはできるのでしょうか。
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(1)協調性がないことによる解雇は難しい
一般的には、単に協調性がないという理由のみで解雇することは相当難しいといわざるを得ないでしょう。
協調性については客観的な評価が難しく、また、協調性がなくとも、配置転換などで業務への影響を抑えながら雇用を継続できる場合もあるからです。
しかし、協調性を欠いた勤務態度によって、業務遂行や企業秩序の維持に重大な支障を生じさせ、他の社員の士気にも影響を及ぼし、労働契約の継続を期待し難い事態になっている場合には解雇が認められる場合があります。
これまでの裁判例によれば、以下のような項目が、解雇の有効性を判断する際の重要な考慮要素として挙げられます。解雇の有効性を判断する考慮要素- 協調性の欠如した言動が、業務や企業秩序に与えた影響
- 言動がどれくらい悪質だったか
- 問題となる言動の頻度
- 指導に対する対応(改善が見られたか、むしろ反抗的な態度をとったか)
- 将来における改善の可能性
- 職場との信頼関係が残っているか
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(2)【裁判例】協調性のなさを理由に解雇が認められたケース
協調性がないことを理由に、解雇が認められた裁判例を紹介します。
平成28年11月24日東京高等裁判所判決です。本件では、正社員12名、パート職員12名の小規模な会社において、問題となった従業員は、検品部門に所属していました。
従業員には、以下のような行動がありました。- 他の従業員に対して、きつい言葉遣いや態度をとったり、怒鳴る、叱責するなどの言動
- これらの振る舞いによって、他の従業員が強い不満やストレスを感じて退職したり、精神的に追い詰められて早退したり、代表者に対して繰り返し改善を求めていた従業員もいた
- 代表者が、これまで再三にわたり、言葉遣いや態度等を改めるよう注意し、「改善しないのであれば会社を辞めるしかない」と警告・指導してきたにもかかわらず、反省して態度等を改めることをしなかった
- 休暇を取得する際に休暇届けを事前に出さない
- 自分宛の電話以外を取らず、他のほとんどの従業員に対してきちんとした挨拶をしなくなった
裁判所は、以下のような理由によって解雇を有効と認めました。
- 問題となった従業員の態度等は、単に職場の良好な人間関係を損なうという域を超えて、職場環境を著しく悪化させ、会社の業務にも支障を及ぼすものである
- 問題となった従業員をこのまま雇用し続ければ、その言葉遣いや態度等により、他の従業員が早退したり退職したりする事態となる
- 検品部門は会社の業務において重要な役割を果たしており、その責任者や他の職員が退職する事態となれば、会社の業務に重大な打撃を与えることになる
- 小規模な会社のため、問題となった従業員を他の部門に配置換えすることは事実上困難であり、解雇に代わる有効な代替手段がない
- 再三にわたり言葉遣いや態度等を改めるよう注意し、改めない場合には会社を辞めるしかないと指導、警告してきたにもかかわらず、問題となった従業員は、反省して態度を改めることをしなかった
従業員の協調性の欠如が大きかったことはもちろんですが、
- 小規模会社で配置転換が事実上難しい
- 再三の指導・警告にもかかわらず、改善がなかったこと
- 態度を改めない場合には会社を辞めるしかないとまで警告していたこと
なども裁判所が重きを置いたポイントといえるでしょう。
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(3)解雇前に押さえるべき「労働基準法20条・16条」
協調性のなさを理由に解雇する前に知っておくべき基礎知識として「労働基準法20条・16条」も挙げられます。
労働基準法20条は、従業員を解雇しようとする場合には、少なくとも30日前に「解雇予告」をしなければならないことを定めています。仮に30日前に予告をしない場合には、解雇予告手当として、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。
また労働契約法16条では、「解雇は、客観的に合的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とされています。
具体的にどのような解雇理由が有効とされるかは、(1)でご紹介した「解雇の有効性を判断する考慮要素」や(2)の裁判例で解説した通りです。
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3、協調性がない社員への適切な対応方法
協調性がない社員に対しては、指導や注意などの具体的な対応はもちろん、就業規則で処罰事項などを定める事前対策も有効です。それぞれについて、説明します。
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(1)就業規則で規定を定めておく
就業規則で協調性の欠如した勤務態度に対処するための必要な事項を定めておくことが重要です。
たとえば、服務規律として「労働者は、職務上の責任を自覚し、誠実に職務を遂行するとともに、会社の指示命令に従い、職務能率の向上及び職場秩序の維持に努めなければならない。」といった概括的な規定をおきます。
その上で具体的な内容を順守事項として定め、これらの服務規律違反を懲戒事由として定めるといった対応を行うことが考えられます。 -
(2)注意・指導を行う
まず、会社が注意・指導を行う際には、従業員と面談し、注意事項を記載した書面を従業員に交付することや、勤務態度の改善を誓う誓約書を提出させます。
このように書面で形に残すことが、会社が注意・指導を行ってきたことを立証するために重要になります。口頭注意のみで終わらせてはなりません。 -
(3)改善されない場合│懲戒処分・解雇
もし注意・指導を行っても協調性不足の言動などが改善されない場合は、けん責などの比較的軽い懲戒処分を行って、協調性欠如には大きな問題があるため、改善すべきであることを警告します。
これらの注意・指導や懲戒処分によっても労働者の言動・勤務態度が改善されない場合には、解雇を検討するようにしていただくとよいでしょう。
4、問題社員への対応については弁護士へご相談を
協調性が欠如する社員への対応については、就業規則における対応、一連の注意・指導、懲戒処分、そして解雇の検討といった流れで進みますが、いずれの手続きにも慎重な対応が求められます。
また、いざ訴訟となった場合に備え、証拠の収集・作成などの配慮も必要となります。これらの手続きを有効かつ円滑に進めるためには、労務問題を多く取り扱う弁護士のサポートが有効といえるでしょう。
5、まとめ
協調性が欠如することを理由に解雇まで有効に実施するのは、極めてハードルが高く、慎重に各種の手続きを進めなくてはなりません。そして、解雇を決断するにあたっては、解雇権濫用法理に対する理解も必要であることから、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスでは、問題社員の解雇トラブルなど労務問題のご相談を受け付けています。従業員への対応についてお困りの際には、まずはお気軽にベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスへご相談ください。
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