就業規則を見たことがない! 会社の違法性と責任を問えるケースとは
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鹿児島労働局が公表している管内企業の監督指導結果によると、令和元年に行った監督指導(1580件)のうち、就業規則に関する違反を指摘された企業は89件でした。
就業規則は、会社と労働者との間の基本的なルールを定める重要な規則であり、一定規模以上の会社では、就業規則の作成および周知が労働基準法で義務付けられています。
しかし、「就業規則を見たことがない」という労働者の方も少なくありません。そもそも、就業規則が作成されていなかったり、周知されていなかったりした場合には、労働条件はどのようになるのでしょうか。
今回は、就業規則を見たことがないという会社における違法性と責任を問えるケースについて、ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスの弁護士が解説します。
1、就業規則とは
そもそも就業規則とはどのようなものなのでしょうか。以下では、就業規則に関する基本事項について説明します。
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(1)就業規則とは
就業規則とは、労働者の賃金、労働時間などの労働条件や職場内の規律などについて定めた規則のことをいいます。
就業規則に何を記載するかは会社が独断で決めていいものではありません。記載する内容は、以下の2つになります。- 絶対的必要記載事項……労働基準法によって必ず記載することが義務付けられている
- 相対的必要記載事項……就業規則内で定めを設ける場合には必ず記載が必要になる
① 絶対的必要記載事項
絶対的必要記載事項としては、以下の3つの項目が挙げられます。労働時間に関する項目 始業・終業時刻、休憩時間、休日および休暇、交替制の就業時転換に関する事項 賃金に関する事項 賃金の決定、計算および支払い方法、賃金の締め切りおよび支払時期、昇給に関する事項 退職、解雇に関する事項 退職事由、退職手続、解雇事由など
② 相対的必要記載事項
相対的必要記載事項としては、以下の8つの項目が挙げられます。- 退職手当に関する事項
- 臨時の賃金、最低賃金額に関する事項
- 食費、作業用品などの負担に関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰、制裁に関する事項
- その他全労働者に適用される事項
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(2)就業規則の役割
就業規則の役割は、労働条件や職場規律を定めることによって、画一的・統一的な労働条件を労働者に適用することです。
労働条件は、会社と労働者間の個別の合意によって決定しますが、多くの労働者がいる会社では、一人ひとりの労働者と個々の労働条件を定めるのは現実的ではありません。また、労働者ごとにバラバラの労働条件では、会社としても労務管理が煩雑になってしまいます。
就業規則で労働条件や職場規律を定めた場合には、その内容が個々の労働者との労働契約になりますので、労働者一人ひとりと個別に合意を得る必要がなくなります。
2、就業規則がない、もしくは周知されていない会社は違法性が高い
就業規則がない、もしくは周知されていない会社は、労働基準法に違反している可能性が高いです。
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(1)就業規則の作成が義務付けられている会社とは
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成が義務付けられています(労働基準法89条)。
「常時10人以上の労働者を使用する」とは、雇用形態に関係なく雇用している労働者が常態として10人いることをいいますので、正社員であるか契約社員、パート、アルバイトであるかは問いません。また、実際に出勤している人数ではなく雇用している人数が基準になります。
また、就業規則の作成義務は、会社単位ではなく事業場単位で課されますので、会社全体で10人以上の労働者がいても、事業場単位では10人未満であれば就業規則の作成義務はありません。 -
(2)就業規則の作成だけでなく労働者への周知も必要
労働基準法では、就業規則の作成だけでなく、就業規則を労働者に周知することも義務付けられています(労働基準法106条1項)。労働者への周知は、以下のいずれかの方法によって行わなければなりません。
① 確認できる場所に掲示する
就業規則は、事業所に備え付けておくか事業所の見やすい場所に掲示しなければなりません。労働者が就業規則の内容を確認したいと思った際にどこにあるかわからない状態では周知したとはいえません。
② 書面で交付する
就業規則を印刷して、入社時などに配布があれば、確実に周知したといえます。しかし、労働者の人数が多い会社では、印刷コストがかかり、書類管理が必要となるため、書面での交付が行われている会社は多くはないでしょう。
③ データで共有する
社内ネットワークを導入している会社では、就業規則を電子化して、共有フォルダで保管するケースもあるでしょう。ただし、共有フォルダにパスワードなどによる閲覧制限がかかっている場合には、誰でも閲覧できる状態とはいえません。 -
(3)就業規則の作成もしくは周知を怠った場合の罰則
就業規則の作成義務があるにもかかわらず、作成および労働基準監督署への届出を怠った場合には、労働基準法89条違反となりますので、30万円以下の罰金が科されます(労働基準法120条1号)。
また、就業規則の周知を行った場合には、労働基準法106条違反となりますので、同様に30万円以下の罰金が科されます(労働基準法120条1号)。
3、見たことがない就業規則を会社に主張されたら?
残業代請求や不当解雇などで争っているときに会社側が見たことのない就業規則を根拠に正当性を主張してきた場合には、どのように対処したらよいのでしょうか。
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(1)そもそも就業規則の作成または周知がなかった場合
就業規則が作成されて、労働者に周知されていた場合には、就業規則の内容が労働契約内容になります。
たとえば、就業規則で解雇事由や懲戒事由などが定められていれば、不当解雇の有効性は、就業規則が定める解雇事由や懲戒事由に該当するかどうかという面で審査されることになります。
しかし、そもそも就業規則が作成されていなかったり、作成されていたとしても労働者への周知がなかったりした場合には、上記のような就業規則の効力は生じません。
この場合には、会社と労働者との間の個別の合意や労働基準法などに従って契約内容を判断することになりますので、会社側は就業規則を持ち出して処分の正当性を主張することはできません。 -
(2)周知されていたにもかかわらず労働者が読んでいなかった場合
労働者の中には、就業規則を見たことがないという方も少なくないでしょう。実際に就業規則を確認しようと思うのは、会社と何らかのトラブルになったときの場合も多く、円満な関係が続いている限り、就業規則を見たことがないというのも決して珍しいことではありません。
しかし、会社が就業規則の作成および周知をしていたにもかかわらず、労働者が就業規則を読んだことがなかった場合、就業規則の効力は生じます。そのため、労働者側で「見たことない」、「読んだことない」と反論したとしても、正当な反論とはなりませんので注意が必要です。
4、労働問題に直面したら弁護士に相談を!
労働問題に直面したら、まずは、弁護士にご相談ください。
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(1)適切な解決方法についてアドバイスしてもらえる
労働問題には、不当解雇、残業代未払い、セクハラ・パワハラなどさまざまな種類があります。このような労働問題を解決するためには、労働関連法令に関する知識と理解が不可欠となりますので、一般の労働者では、最適な解決方法を見出すことは困難です。
弁護士に相談すれば、労働問題に関する知識と経験を有しているため、具体的状況に応じた最適な解決方法のアドバイスを受けることができます。 -
(2)会社との交渉に関して代理人になってもらえる
労働問題を解決するためには、会社との交渉が不可欠です。しかし、労働者個人では、会社と交渉しようとしてもまともに取り合ってくれないことも少なくありません。
弁護士は労働者に代わって会社と交渉を行うことができるため、一任すればスムーズに交渉が進む可能性が高まります。交渉によるストレスを軽減するためにも、会社との交渉は弁護士にお任せください。 -
(3)労働審判や訴訟などの法的手続きを任せることができる
会社との交渉で問題が解決しない場合には、労働審判や訴訟などの法的手続きが必要になります。労働審判や訴訟になると法的な知識がなければ適切に対応することが難しいため弁護士のサポートが不可欠といえます。
労働者としての正当な権利を実現するためにも、労働問題への対応は、実績ある弁護士に依頼することをおすすめします。
5、まとめ
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成・届出が義務付けられています。会社に就業規則がない、就業規則を見たことないという場合には、就業規則を根拠とした処分を、労働者に下すことはできません。
万が一、会社側が就業規則を根拠に処分の正当性を主張してきたとしても、就業規則の作成・周知義務違反を理由に争うことができる可能性もあります。労働トラブルで悩んだら、まずは、ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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