残業代の計算方法|基本給と基礎賃金の違いや諸手当などの基礎知識

2022年10月20日
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残業代の計算方法|基本給と基礎賃金の違いや諸手当などの基礎知識

鹿児島県が公表している労働時間についての統計資料によると、令和2年の常用労働者1人平均月間総労働時間は、事業所規模5人以上の事務所で141.9時間、事業所規模30人以上の事務所で144.6時間でした。また、所定外労働時間は、事業所規模5人以上の事務所で7.8時間、事業所規模30人以上の事務所で9.4時間でした。

残業をした場合には、残業時間に応じた残業代が支払われることになりますが、会社から支払われている残業代が正しく計算されているものであるかを確認しているという方は少ないかもしれません。

残業代計算は、複雑な計算になりますので、会社の担当者でも間違った計算をしている可能性があります。思ったよりも残業代が少ないという場合には、残業代計算の誤りを疑ってみるとよいでしょう。

今回は、基本給と残業代計算の基礎知識について、ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスの弁護士が解説します。

1、残業代の計算方法|法定内残業と法定外残業

残業代はどのように計算すればよいのでしょうか。以下では、残業代の基本的な計算方法と法内残業と法定外残業の違いについて説明します。

  1. (1)残業代の基本的な計算方法

    残業代は、「基礎賃金×残業時間×割増率」という計算式によって計算をすることになります。
    これだけみれば残業代計算は、非常に簡単だと思う方もいるでしょう。しかし、残業代計算に必要となる「基礎賃金」、「残業時間」、「割増率」といった各要素については、労働関係法令の正確な理解がなければ、適切な数値を算出することが難しいものとなっています

    本コラムでは、残業代計算に必要となる各要素の内容について、詳しく説明していきます。

  2. (2)法定外残業と法定内残業の違い

    残業代を計算する前提として、法定内残業と法定外残業の違いについて理解しておくことが大切です。

    法定外残業とは、法定労働時間を超えて働いた場合の残業を指します。

    労働基準法では、1日8時間、1週40時間を法定労働時間と定めています。したがって、1日10時間働いたという場合には、2時間分の法定外残業をしたことになります。

    法定内残業とは、会社の就業規則などで定められている所定労働時間を超え、法定労働時間内の残業を指します。たとえば、会社の就業規則で所定労働時間が6時間と定められている場合に、8時間働いたとすると、2時間分の法定内残業をしたことになります。

    この場合には、法定労働時間を超えてはいませんので、法定外残業は発生しません。

    法定外残業と法定内残業は、いずれも残業にあたりますので、残業時間に応じた賃金を支払う必要があるという点では共通します。

    しかし、法定外残業の場合には、通常の賃金に加えて、一定の割増率よって計算をした割増賃金の支払いが必要であるという点が異なります。

  3. (3)残業時間を確認する方法

    タイムカードによって、勤怠管理をしている会社では、タイムカードを確認することによって、具体的な残業時間を把握することができます。

    しかし、タイムカードがないという場合やタイムカードはあってもサービス残業をしているためタイムカードに記録されていないという場合には、タイムカードだけでは残業時間を確認することができません。

    そのような場合には、以下の方法によって、残業時間を確認することができる場合があります。

    • 業務日報
    • パソコンのログイン・ログアウト記録
    • パソコンのメールの送信記録
    • 入退室記録
    • 交通系ICカードの記録、帰宅時のタクシーの領収書
    • 日記、メモ

2、基礎賃金の計算方法|ベースとなる基本給

以下では、残業代計算に必要となる「基礎賃金」の計算方法について説明します。

  1. (1)基礎賃金とは

    基礎賃金とは、基本給に各種手当を加えた上で計算をした、1時間あたりの賃金額のことをいいます。

    1時間あたりの賃金額を計算するためには、以下のような計算をする必要があります。

    (基本給+各種手当)÷{(365日-1年間の所定休日日数)×1日の所定労働時間÷12}
  2. (2)基礎賃金に含まれる諸手当と除外される諸手当

    基礎賃金を計算する場合には、基本給に各種手当を加えることになりますが、会社から支払われるすべての諸手当が対象になるわけではありません。

    基礎賃金の計算に含まれない諸手当としては、以下のものが挙げられます。

    • ① 家族手当
    • ② 通勤手当
    • ③ 別居手当
    • ④ 子女教育手当
    • ⑤ 住宅手当
    • ⑥ 臨時に支払われた賃金
    • ⑦ 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金


    ただし、上記の①~⑤に該当する手当については、その名称ではなく実態で判断するという点に注意が必要です。

    たとえば、「家族手当」として支給されているものがあったとしても、家族の人数に関係なく一律に支給されるものについては、基礎賃金から除外することはできません。このように実態とは関係なく一律の金額が支給されているものについては、基礎賃金に含めて計算をしていくことになります。

  3. (3)基礎賃金の計算例

    それでは、下記の具体例で基礎賃金を計算してみましょう。

    月給:40万円
    (基本給:30万円、役職手当:5万円、家族手当:2万円、通勤手当:3万円)
    1日の所定労働時間:8時間
    1年間の所定休日日数:110日


    このケースでは、家族手当と通勤手当は基礎賃金には含まれない諸手当になりますので、基礎賃金の計算の基礎となる月給は35万円(基本給30万円+役職手当5万円)となります。

    この場合の基礎賃金は、以下のように計算をします。
    35万円÷{(365日-110日)×8時間÷12}≒2059円

3、残業代計算時の割増率

以下では、残業代計算に必要となる「割増率」について説明します。

  1. (1)割増率とは

    割増率とは、労働者が時間外労働、深夜労働、休日労働をした場合に支払われる割増賃金の計算で使用される割合のことをいいます。

    割増率については、労働基準法によって、以下の割合以上にしなければならないと定められています。

    • 時間外労働:25%以上
    • 深夜労働:25%以上
    • 休日労働:35%以上
    • 1か月60時間を超える時間外労働:50%以上


    なお、「1か月60時間を超える時間外労働」に対する割増率については、中小企業については適用が猶予されていますが、令和5年4月1日以降は中小企業にも適用されることになります。

    また、時間外労働についての割増率が適用されるのは、法定労働時間を超えて残業をした「法定外残業」の場合です。法定内残業の場合には割増率は適用されませんので注意が必要です。

  2. (2)役職や労働体系によっては割増手当がつかないこともある

    労働者の中には、経営者と一体的な立場にあり、部下の労務管理や重要な権限を委ねられている方がいます。このような労働者のことを労働基準法では、「管理監督者」と呼び、割増手当の適用外とされています。

    ただし、管理監督者であるかどうかは、肩書や名称ではなく、実質で判断することになりますので、「名ばかり管理職」とされている方は、通常の労働者と同様に残業代を請求することができます。

    また、固定残業代が支払われている場合には、固定残業代として予定されている残業時間分の残業代はすでに支払い済みですので、割増手当を請求することはできません。ただし、固定残業代として予定されている残業時間を超えて残業をした場合には、別途残業代を請求することが可能です

    このように役職や労働体系によっては、割増手当がつかないこともありますので注意が必要です。

4、残業代の請求を弁護士に依頼すべき理由

残業代の請求をお考えの方は、弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)適正な残業代を計算することができる

    上記のように残業代を計算するためには、非常に複雑な計算が必要となります。役職や労働体系によっては、残業代が発生しないこともありますので、その点の理解も必要となります。

    そのため、労働関係法令の知識や理解がない方では、正確な残業代を計算することは困難といえるでしょう。

    正確な残業代の計算ができなければ、未払いの残業代があったとしてもそれに気付かず、残業代請求権の時効期間の3年を過ぎてしまう可能性もあります。

    時効によって権利を失ってしまう前に適正な残業代を計算するためにも、早めに弁護士に相談をすることが大切です

  2. (2)会社との交渉や労働審判・裁判を任せることができる

    残業代請求をする場合には、まずは会社と話し合いをすることが基本となります。しかし、労働者個人が残業代を請求したとしても、取り合ってくれないこともあります。

    会社と対等な立場で話し合いに臨むためにも、弁護士を代理人にして交渉を進めるとよいでしょう。

    弁護士であれば、未払いの残業代が発生していることを法的根拠に基づいて説明し、任意の支払いに向けて会社を説得することができますので、話し合いによって解決する可能性が高まります

    話し合いによる解決が難航した場合も、労働審判や裁判などの法的手段によって解決を図るよう柔軟に対応できますので安心してお任せください。

5、まとめ

今回は、残業代計算の基本について解説しましたが、残業代計算の方法は、役職や労働体系によっては通常とは異なる計算が必要になることもあります。正確な残業代を計算するためには、弁護士のサポートが不可欠といえるでしょう。

会社に対する残業代請求をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています