残業代が割増されないのは違法? 残業代の仕組みと割増賃金の考え方

2023年03月16日
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残業代が割増されないのは違法? 残業代の仕組みと割増賃金の考え方

毎月長時間の残業をしているにもかかわらず、残業時間に応じた割増賃金が支払われていないと感じる方もいるのではないでしょうか。

労働者には、残業時間に応じた残業代を請求する権利があります。そのため、未払いの残業代がある場合には、会社に対して請求していくことが大切です。

今回は、残業代の仕組みと割増賃金の考え方について、ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスの弁護士が解説します。

1、残業代が割増されないのは違法? 残業代と割増賃金の考え方とは

以下では、残業代の仕組みと割増賃金の考え方について説明します。

  1. (1)残業とは

    残業とは、契約上または法律上定められた時間を超えて働くことをいいます。

    労働基準法では、1日8時間・1週40時間を法定労働時間と定めており、基本的には、法定労働時間を超えて労働者に残業を命じることはできません。ただし、やむを得ない事情がある場合には、使用者と労働者の代表者との間で36協定を締結し、労働基準監督署に提出することによって、残業を命じることができます。このように法定労働時間を超える残業のことを「法定外残業」といいます。

    他方、会社の就業規則や労働契約で決められた労働時間のことを所定労働時間といいます。所定労働時間を超えて残業をすることもありますが、これを「法内残業」といいます。

  2. (2)法内残業と法定外残業の違い

    法定外残業は、労働基準法で定める法定労働時間を超えて働いていますので、労働基準法が定める割増賃金の支払いが必要になります。これは、割増賃金の負担を企業に課すことによって、長時間残業を抑止しようとするのが目的です。

    他方、法内残業は、所定労働時間は超えていますが、法定労働時間の範囲内での残業になりますので、割増賃金の支払いは不要です。ただし、残業をしていますので、残業時間に応じた賃金の支払いは必要になります。

  3. (3)割増賃金の適用が除外される労働者

    法定外残業をした場合には、会社には残業時間に応じた割増賃金の支払いが義務付けられていますので、割増賃金を支払わないことは原則として違法となります。

    もっとも、労働基準法では、割増賃金の適用が除外される労働者として、以下の労働者を定めています。

    • 農業(林業を除く)、畜産業、養蚕業、水産業に従事する人
    • 事業の種類にかかわらず監督もしくは管理の地位にある人または機密事務を取り扱う人
    • 監視または断続的労働に従事する人で使用者が行政官庁の許可を受けた人


    これらに該当する労働者は、法定時間外労働および法定休日労働をしたとしても割増賃金を支払う必要はありません。ただし、適用除外となるのは、あくまでも「労働時間」、「休憩」、「休日」に関する規定ですので、深夜労働をした場合には割増賃金の支払いが必要になります。

2、法定外残業における割増率とは?

法定外残業における割増率は、どのように定められているのでしょうか。以下では、法定外残業とそのほかの割増率の定めについて説明します。

  1. (1)法定外残業における割増率

    法定外残業をした場合には、その時間に対して25%以上の割増賃金を支払わなければなりません。

    たとえば、所定労働時間が午前9時から午後5時(休憩1時間)の会社では、以下のような割増賃金の支払いが必要になります。

    • 午後5時から午後6時:1時間あたりの賃金×1.00×1時間(法内残業)
    • 午後6時から午後10時:1時間あたりの賃金×1.25×4時間(法定外残業)


    また、1日の労働時間が8時間以内であっても週40時間を超える場合には、超える部分について25%以上の割増賃金の支払いが必要になります。

  2. (2)1か月60時間を超える法定外残業における割増率

    残業が長時間に及ぶと十分な睡眠時間を確保することができず、心身ともに疲労が蓄積してしまいます。そこで、労働者が健康を保持しながら働くことができるようにするために、1か月60時間を超える法定外残業については、割増率が50%以上に引きあげられています。

    大企業については、すでにこの割増率が適用されていますが、中小企業については適用が猶予されています。しかし、令和5年4月1日からは、中小企業に対しても月60時間を超える時間外労働の割増賃金が適用されますので注意が必要です。

  3. (3)深夜労働における割増率

    深夜労働をした場合には、その時間に対して25%以上の割増賃金を支払わなければなりません。深夜労働とは、午後10時から午前5時までの労働を指しますので、この時間帯に働いた場合には、深夜労働の割増賃金を請求することができます。

    なお、法定外残業と深夜労働が重なる部分については、両者の割増率が適用されますので、50%以上の割増賃金を請求することができます。

  4. (4)休日労働における割増率

    休日労働をした場合には、その時間に対して35%以上の割増賃金を支払わなければなりません。労働基準法では、1週に1日または4週を通じて4日以上の休日を与えることが義務付けられています。このような休日を「法定休日」といいます。割増賃金の支払い対象となるのは、あくまでも法定休日における労働ですので、それ以外の所定休日の労働に対しては、休日労働の割増賃金は適用されません。

3、未払い残業代を請求する際に押さえておきたいポイント

会社に対して未払い残業代を請求する場合には、以下のポイントを押さえておきましょう。

  1. (1)残業代請求においては証拠が重要

    残業代請求をする際には、労働者の側で残業をしたことを証明していかなければなりません。いくら口頭で残業の事実を伝えたとしても、それを裏付ける証拠がなければ、会社に未払い残業代の存在を認めさせることはできません。また、裁判になった場合も証拠がなければ有利な判断をしてもらうことができません。

    そのため、残業代請求をする際には、まずは、証拠を集めることが重要です。残業代請求の証拠となるものとしては、以下のものが挙げられます。

    • 就業規則、賃金規程
    • 労働契約書
    • 給与明細
    • タイムカード
    • 業務日報
    • パソコンのログ履歴
    • 入退室記録
    • 日記やメモ
  2. (2)残業代を正確に計算すること

    残業代を計算する際には、すでに説明した割増率以外にも1時間あたりの基礎賃金を計算しなければなりません。その際には、会社から支払われた手当から家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住居手当、臨時に支払われた賃金、1か月を越える期間ごとに支払われる賃金を除外しなければならず、月平均所定労働時間の算定など非常に複雑な計算が必要になります。

    計算を間違えてしまうと本来もらえるはずの残業代がもらえないリスクもありますので、残業代を計算する際には、正確に計算することが重要です。

  3. (3)残業代請求権には時効がある

    残業代の請求権には時効がありますので、会社に対して、未払いの残業代を請求する場合には、時効が成立する前に請求することが大切です。

    残業代の時効は、残業代の支払い期限から3年となっています。長期間残業代が未払いの状態になっている場合には、毎月残業代が時効によって消滅している可能性もありますので、早めに対応するようにしましょう。

4、未払い残業代を請求するなら弁護士に相談を

未払いの残業代請求をお考えの方は、弁護士に相談することをおすすめします。

  1. (1)残業代請求が可能であるか判断できる

    法内残業だと割増賃金が請求できず、労働基準法上の管理監督者にあたる場合には、残業代の請求自体できません。このように残業代を請求することができるかについては、労働基準法などの法律の理解が不可欠となります。

    そのため、まずは弁護士に相談をして、ご自身のケースが残業代請求の可能なケースであるかどうかを判断してもらうとよいでしょう。

  2. (2)正確に残業代を計算することができる

    残業代の計算は、非常に複雑な計算となりますので、専門的な知識や経験がなければ正確な金額を計算するのは困難です。

    残業代の計算を誤ってしまうと、本来もらえるはずの残業代がもらえなくなったり、会社との話し合いで揉めたりする原因にもなりますので、残業代計算は専門家である弁護士に任せるとよいでしょう。

  3. (3)会社との交渉を任せることができる

    残業代を請求する場合には、まずは会社との話し合いによって解決を図ります。しかし、労働者個人では、会社とうまく話し合いを進めることができず、残業代請求をうやむやにされてしまうおそれがあります。

    弁護士であれば労働者の代わりに会社と交渉をすることができますので、会社としても真剣に対応してくれるといえるでしょう。

  4. (4)審判や訴訟になった際もスムーズに進めることができる

    会社との話し合いで解決することができない場合には、労働審判や訴訟によって解決を図ります。このような法的手続きを進めるにあたっては、専門家である弁護士のサポートが不可欠です。ひとりで手続きを進めることに少しでも不安がある場合には、弁護士に相談をするようにしましょう。

5、まとめ

残業や深夜労働、休日労働をした場合には、法定の割増率以上の割合で増額した割増賃金を請求することができます。会社から支払われている給料が少ないと感じる場合には、適正な割増賃金が支払われていない可能性があります。

未払いの割増賃金がある場合には、時効前に請求する必要がありますので、お早めにベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています