遺留分の計算方法や遺留分侵害額請求権について

2023年01月26日
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遺留分の計算方法や遺留分侵害額請求権について

裁判所が公表している司法統計によると、令和3年に鹿児島家庭裁判所に申し立てのあった遺言書の検認事件の件数は、205件でした。遺言書の検認とは、遺言書の偽造・変造を防ぐための手続きです。

遺言書に不公平な遺産分割の内容が記載されていた場合、こうした手続きを検討する方もいるでしょう。もし不公平な内容の遺言書であった場合、遺留分侵害額請求権を行使することによって、最低限の遺留分を確保することができます。

今回は、遺留分の計算方法や遺留分侵害額請求権について、ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスの弁護士が解説します。

1、遺留分について

遺留分とは、一定の範囲の法定相続人に対して認められている、最低限度の遺産の取得割合のことをいいます。

民法では、相続人の遺産の取得割合として法定相続分を定めています。一方で法定相続分は、遺言や遺産分割協議によって排除することができるとされています。そのため、遺言書が法定相続分と異なる割合で遺産を分割するよう指定していたとしても、遺言の要件を満たしている限り、有効として扱われます。

しかし、相続財産は、相続人の生活を保障するという意味もあります。被相続人の意向だけで相続人の相続財産に対する期待をすべて奪ってしまうのは不公平な結果を招くおそれがあります。

そこで、被相続人の遺言によっても奪うことができない最低限度の遺産の取得割合を定めることによって、相続人の相続財産への期待を保護しようとしたのです。これが、遺留分です。

2、遺留分が認められる相続人と割合

遺留分は、どの範囲の相続人に対して、どの程度の割合が保障されているのでしょうか。これから、遺留分が認められる相続人とその割合について説明します。

  1. (1)遺留分が認められている相続人

    遺留分の制度は、相続人の遺産相続に対する期待を保護する制度ですので、遺留分が認められている相続人は、一定の範囲の相続人に限定されています。

    民法では、遺留分を請求することができる相続人を以下のように定めています。

    • 配偶者
    • 子ども(直系卑属)
    • 両親(直系尊属)


    他方、被相続人の兄弟姉妹には、遺留分が認められていません。被相続人の兄弟姉妹は、一般的に被相続人と別々に暮らしていることが多く、被相続人が死亡したとしても、兄弟姉妹の生活が困窮するとは考えられないことが理由です。

    なお、被相続人よりも先に子どもが死亡しており、子どもに子ども(被相続人の孫)がいる場合には、代襲相続により被相続人の孫にも遺留分が認められます

  2. (2)遺留分の割合

    遺留分の割合は、誰が相続人になるかによって、以下のように異なっています。

    • 相続人が直系尊属のみの場合:法定相続分の3分の1
    • それ以外の場合:法定相続分の2分の1


    また、各相続人の法定相続分は、相続人の組み合わせによって異なってきますので、以下では具体的なケースを挙げて遺留分の計算方法を説明します。

    ① 相続人が子どものみの場合
    相続人が子どものみの場合、子どもがすべての相続財産を相続することになります。子どもの遺留分割合は2分の1ですので、相続財産の2分の1については最低限保障されることになります。なお、子どもが複数いる場合には、相続分は人数で分割されます。

    たとえば、相続財産が6000万円で相続人が子ども2人であった場合、以下のようになります。

    子ども1人あたりの遺留分:6000万円×4分の1=1500万円


    ② 相続人が配偶者と子どもの場合
    相続人が配偶者と子どもの場合、配偶者の法定相続分は2分の1*、子どもの相続分は2分の1となります。また、配偶者の遺留分は相続財産の4分の1*、子どもの遺留分は相続財産の4分の1となります。

    たとえば、相続財産が6000万円で相続人が配偶者と子ども2人であった場合、各相続人の遺留分は以下のようになります。

    配偶者の遺留分:6000万円×4分の1=1500万円
    子ども1人あたりの遺留分:6000万円×4分の1×2分の1=750万円


    ③ 相続人が配偶者と親の場合
    被相続人に子どもがおらず、配偶者と両親がいる場合には、配偶者の法定相続分は3分の2*、両親の法定相続分は3分の1となります。また、配偶者の遺留分は相続財産の3分の1*、両親の遺留分は相続財産の6分の1となります。

    たとえば、相続財産が6000万円で相続人が配偶者と両親(父・母)であった場合、各相続人の遺留分は以下のようになります。

    配偶者の遺留分:6000万円×3分の1=2000万円
    両親1人あたりの遺留分:6000万円×6分の1×2分の1=500万円


    ④ 相続人が両親のみの場合
    相続人が両親のみの場合、両親がすべての相続財産を相続することになります。両親のみの遺留分割合は3分の1ですので、相続財産の3分の1については最低限保障されることになります。

    たとえば、相続財産が6000万円で相続人が両親(父・母)であった場合、以下の通りです。

    両親1人あたりの遺留分:6000万円×3分の1=2000万円

3、遺留分侵害額請求の方法は?

遺留分が侵害されていることが明らかになった場合には、遺留分侵害額請求権を行使することによって、遺留分を確保することができます。以下では、遺留分侵害額請求の方法について説明します。

  1. (1)内容証明郵便で書面を送付

    遺留分侵害額請求の方法については、特に決まりはありませんので、口頭で遺留分侵害額請求権を行使する旨伝える方法でも可能です。

    しかし、口頭での権利行使では、権利を行使したかどうかやいつ権利を行使したのかが後日争いになることもありますので、遺留分侵害額請求権を行使する旨を記載した書面を作成し、内容証明郵便を利用して、その書面を送付するという方法が一般的です。

  2. (2)当事者同士の話し合い

    内容証明郵便で書面を送付した後は、当事者同士での話し合いを進めていきます。お互いが認識している相続財産の総額や遺留分の金額などにずれがある場合がありますので、当事者同士の話し合いでは、その点のすり合わせを行っていきます。

    当事者同士の話し合いによって合意に至った場合には、合意書を作成し、合意内容を書面にまとめておくようにしましょう。

  3. (3)遺留分侵害額請求調停の申し立て

    当事者同士の話し合いで解決できない場合には、家庭裁判所に対して、遺留分侵害額請求調停の申し立てを行います。遺留分に関する争いについては、調停前置主義が採用されていますので、いきなり裁判をすることはできず、まずは調停での話し合いを行わなければなりません。

    調停では、家庭裁判所の調停委員が間に入って話し合いを進めてくれますので、当事者だけで話し合いをするよりも冷静に話し合いを進めることができます。調停で合意に至った場合には、その内容が調停調書にまとめられて、調停は終了となります。

  4. (4)遺留分侵害額請求訴訟の提起

    調停でも話し合いがまとまらなかった場合には、最終的に地方裁判所または簡易裁判所に遺留分侵害額請求訴訟を提起します。

    訴訟では、遺留分の侵害があったことおよび遺留分の侵害額について、原告の側で主張立証していかなければなりません。裁判の対応は、法的知識がなければ困難ですので、弁護士に相談をすることをおすすめします。

4、遺留分について知っておくべき注意点

遺留分侵害額請求をお考えの方は、以下のポイントを押さえておきましょう。

  1. (1)遺言書と遺留分のどちらが優先されるのか

    遺留分を侵害する内容の遺言書であっても、そのことを理由として遺言書が無効になることはありません、しかし、遺留分は、一定の範囲の相続人に保障された最低限度の遺産の取得割合ですので、遺留分については、被相続人の遺言によっても奪うことはできません

    遺留分を侵害する内容の遺言書に不満がある場合には、遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求権を行使して、侵害された遺留分に相当する金銭を取り戻すようにしましょう。

  2. (2)遺留分侵害額請求権の時効

    遺留分侵害額請求をする場合には、時効に注意が必要です。遺留分侵害額請求権の時効は、相続開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈を知ったときから1年とされています。

    そのため、遺留分の侵害を知った場合には、早めに遺留分侵害額が請求を行うことが大切です。

    また、時効期間内に権利を行使したことを明らかにするためにも、遺留分侵害額請求権を行使する場合には、内容証明郵便を利用して書面によって行うようにしましょう。

    なお、相続開始から10年が経過すると除斥期間によって遺留分を請求することができなくなりますので、その点にも注意が必要です。

5、まとめ

被相続人の遺言に一部の相続人のみを有利に扱う内容が記載されていた場合には、他の相続人の遺留分が侵害されている可能性があります。遺留分が侵害されている場合には、遺留分侵害額請求を行うことによって、侵害された遺留分に相当する額を請求することができます。

しかし、遺留分侵害額請求には、非常に短い期間制限が設けられていますので、遺留分の侵害を知った場合には、早めに弁護士に相談をすることが大切です。

遺留分侵害額請求をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています