相続手続きは代理人に依頼できる? 代理人になれる人や注意点
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鹿児島市が公表している人口に関する統計資料によると、令和4年の鹿児島市の死亡者数は、7,145人でした。死亡者数は前年より779人増加しており、死亡率も前年を上回っており増加傾向です。
親族が亡くなることによって相続が開始することになりますが、相続に関する手続きは複雑です。また、手続きが複雑なうえに、相続人同士の話し合いでトラブルに発展するケースも少なくありません。
相続人の中には、別の人に代理で相続手続きを行ってほしいと考えている方もいらっしゃると思いますが、相続手続きは代理人であっても行うことができるのでしょうか。
本コラムでは、「相続手続きを代理人に依頼できるのか」という問題について、ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスの弁護士がわかりやすく解説します。
1、相続手続きは代理人でも行える|代理人が行う際の注意点
相続手続きは代理人であっても行うことができます。
被相続人(=亡くなった方)の財産を相続する場合、相続を開始する前に財産調査をしたり、相続人同士で分割協議や話し合いをしたりする必要があります。他の相続人と疎遠であったり仲がよくなかったりする場合や、相続財産にどのようなものがあるのか全然分からないという場合には、このような相続手続きを行うことに大きな負担を感じる方も少なくないでしょう。
そこで、相続手続きを代理人に依頼することで、ご本人に代わって遺産分割協議などの相続手続きを進めてもらうことができます。
なお、相続手続きを代理人に任せる場合には、本人から正式に依頼を受けていることを証明するための「委任状」が必要となります。
委任状とは、本人しか行使することができない権限を第三者(代理人)に与えるための書類です。委任状の体裁については特に指定はありませんが、必要事項が適切に記載されている必要があります。
2、相続手続きの代理人になれる人とは?
基本的に相続手続きの代理人については、誰に依頼しても問題ありません。意思能力がある者であれば法的に本人の代理人となることができ、特別な条件や資格は必要ありません。
ただし、依頼する相続手続きの具体的な内容によっては、司法書士や税理士、弁護士などの専門家に依頼することが適切な場合もあるでしょう。
相続税の申告など税務関係は、税理士に依頼することでスムーズに手続きを進めることができます。また、不動産登記に関する手続きについては、司法書士に相談することができます。
なお、法律事務の代理行為を行うことができるのは、弁護士だけです。
たとえば、遺産分割の争いに関する法律相談や、遺産分割の代理人、家庭裁判所における遺産分割調停・審判などの代理人になれるのは弁護士だけです。
もし遺産分割協議で相続人同士の話し合いが折り合わず、遺産分割を行うことができないというケースでは、調停などの裁判手続きに進まざるを得ません。しかし、代理人が友人や家族だった場合、その人が代理人として調停に参加することはできません。
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3、相続人に未成年や認知症の人がいる場合に必要な代理人
相続人に認知症の方や未成年者がいる場合には、代理人を選任しなければならないケースがあります。
以下では、成年後見制度や未成年者の特別代理人について解説します。
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(1)認知症の人の代理人には成年後見人制度を利用する
認知症や知的障害のある方、精神障害のある方は、判断能力を欠く場合があるため、ご自身では相続手続きを進めることができません。
そして、遺産分割協議は、すべての相続人が参加して行う必要があります。1人でも相続人を欠いて行われた遺産分割協議は無効となるのが原則です。
そのため、認知症の相続人がいる場合に相続手続きを進めるためには、「成年後見制度」を利用することになります。
成年後見制度とは、認知症の方、知的障害のある方、精神障害のある方など判断能力が不十分な人を保護することを目的とした制度です。そして、後見開始の審判を受けた人を、成年被後見人というところ、成年被後見人は、日常生活に関する行為を除き、自ら財産上の法律行為をすることができず、それらの法律行為は、成年後見人が代理します。成年被後見人が、この制限に違反してした法律行為は、取り消すことができます。
成年後見制度には、家庭裁判所が成年後見人等を選任する「法定後見」とあらかじめ本人が任意後見人を選ぶ「任意後見」の2種類があります。① 法定後見
法定後見では、判断能力の低下の程度に合わせて、判断能力を欠く場合は「成年後見人」が、判断能力が著しく不十分な場合は「保佐人」が、判断能力が不十分な場合は「補助人」が就任することになります。
② 任意後見
任意後見では、本人の判断能力が十分なうちに、任意後見受任者と任意後見契約を結び、判断能力が不十分な状況になったときに備えるものです。 -
(2)未成年の代理人には特別代理人を立てる
未成年の子どもとその親が相続人になる場合には、特別代理人を選任しなければなりません。
通常、親は子どもの法定代理人として子どもに代わって契約などの法律行為を行うことができます。遺産分割も法律行為であるため、子どもに代わって法定代理人が代行することになります。
しかし、相続においては親と子の利害が対立する可能性があるため、特別代理人を選任する必要があります。たとえば、父親が亡くなり、母親と子どもがそれぞれ相続人になる場合、親が自分の利益を優先して遺産分割手続きを行い、子どもの権利が侵害されてしまうおそれがあります。
このように利益相反関係がある場合には、親権者または利害関係者が子どもの住所地を管轄する家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てることになります。
裁判所に特別代理人選任の申し立てをするときには、候補者を立てることができます。特別な資格は必要ないため、相続人になっていない親族を候補者に指定するケースが一般的です。
たとえば、子どもの祖父母、叔父・叔母などを候補者にすることもできます。また親族に適任がいなければ、友人などでも問題ありません。なお、候補者が家庭裁判所から適任ではないと判断された場合は、家庭裁判所が弁護士を選任することになります。
4、相続手続きの代理人を弁護士に依頼するメリット
相続手続きは弁護士に相談すべきなのでしょうか。
ここでは、相続手続きを弁護士に任せるべき3つのメリットについて解説します。
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(1)すべての手続きを任せられる
相続手続きについては、相続財産の調査から相続人の範囲の調査、所得税や相続税の申告、相続登記手続きなどさまざまな手続きを行う必要があります。
相続事案によっては、前述のように成年後見人や未成年の特別代理人の選任申立てなどを行わなければならない事案もあります。
上記の手続きは複雑であるため、法律の専門的な知識や経験がなければ手続きを進めることが難しいケースも少なくありません。そこで、相続に詳しい弁護士に依頼することで、難しい手続きを一任しておくことができます。
このように、手続き的な負担から解放されることは、ご本人にとって非常に大きなメリットであるといえるでしょう。 -
(2)期限のある手続きも迅速に進めてもらえる
遺産分割手続き自体に法律上の期限はありません。しかし、以下の相続に関連する手続きについては厳格な期限が設けられているため注意しておく必要があります。
- 相続放棄は、相続の開始があったことを知った時から3か月以内
- 相続税申告・納付期限は、相続の開始があったとこと知った日の翌日から10か月以内
- 相続登記の期限は、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内
- 特別受益・寄与分の主張は、相続の開始から10年以内
弁護士に相続手続きを依頼しておけば、上記のような期限のある手続きについても迅速に対応してもらうことができます。相続事案に詳しい弁護士であれば、相続に関連する各種手続きの期限については網羅的に把握しており、適切なスケジュール感を持って手続きを進めていくことが期待できます。
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(3)相続人同士のトラブルを回避できる
弁護士は法律の専門家であり、交渉のプロです。
相続人同士だけの話し合いでは、親族間の不和や個人的な感情によって対立が激化してしまうおそれがあります。
しかし、弁護士が相続人の間に入って話し合いを行うことで、客観的にそれぞれの見解を聞きながら、冷静に話し合いを進められる可能性が高まります。仮に、話し合いがまとまらなかった場合でも、話し合いの段階から弁護士に依頼しておくことで、遺産分割調停や審判などの裁判手続きの対応も、引き続き任せることができます。
このように相続人同士のトラブルを回避できる点も、弁護士に依頼するメリットの1つでしょう。
5、まとめ
相続手続きは代理人が本人に代わって進めることができますが、遺産分割調停や審判などの法律事務の代理を行えるのは弁護士のみです。
相続手続きを代理人に依頼したい場合や、相続人同士で揉めそうな場合には、なるべく早めに弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスには、相続手続きに詳しい弁護士が在籍しておりますので、相続についてお悩みの方はお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています