遺言書を破棄されてしまった場合どうすればよいのか?
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遺言書は、被相続人(亡くなった人)の意思の表れなので、遺産相続は基本的に遺言の内容に従い処理されることになります。
しかし、相続人の中には、自分に都合が悪いからと遺言書を破棄したり、偽造したりする人もいます。遺言書が破棄された場合や偽造された可能性がある場合に他の相続人はどうすればよいのでしょうか。
そこで、今回は、相続人によって遺言書が破棄された場合や偽造された場合に、その相続人はペナルティーを科されるのか、また、他の相続人はどのような対応をすればよいのかなどについて解説していきたいと思います。
1、遺言書の破棄・偽造とは、どんな行為か?
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(1)遺言書の破棄
遺言書の破棄とは、遺言書を破って捨てる、あるいは燃やすなどして遺言書としての役割を害する一切の行為を言います。誰が破棄したかによって、その効果が異なります。
① 遺言者による破棄の場合
自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合、その遺言を遺言者が破棄してしまえば遺言自体が無くなるので撤回と同じ効果になります。他方、公正証書遺言を作った場合には、原本を公証役場で保管するため、自分で保管している遺言書を破棄しても効果はありません。遺言の種類については後で説明します。
② 遺言者以外の人が破棄した場合
遺言は被相続人の意思表示なので、それを遺言者以外の人が勝手に破棄することは許されません。もし、相続人が遺言を破棄した場合には、「相続欠格者」となります。遺言の効力については、遺言の内容が立証できるのであれば、その内容に従うことになります。遺言の内容が立証できない場合には、相続欠格者を除いて遺産分割協議を行い、相続分を決めることになります。相続欠格者がすでに相続財産を受け取っている場合には他の相続人は返還請求をすることができます。
相続人以外の第三者が遺言を破棄した場合には、私文書等毀棄(きき)罪が成立する可能性があります。 -
(2)遺言書の偽造
遺言書の偽造とは、権限がないにもかかわらず、遺言書の本質的な部分を書き換えることを言います。遺言者は権限があるので、遺言者以外の人が遺言の内容を書き換えた場合に偽造となります。
偽造された遺言は、遺言者の意思に反するものなので、その効力は認められません。たとえば、「すべての不動産はAに相続させる」と書いてあったのに、勝手にBが書き換えて「すべての不動産はBに相続させる」とした場合、それが認められては困るわけです。そのため無効原因とされています。遺言を偽造した相続人も遺言を破棄した相続人と同様、「相続欠格者」となります。
2、遺言書が破棄された場合の影響
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(1)自筆証書遺言の場合
自筆証書遺言とは、遺言者がすべての内容を自分で書く遺言書です。誰にも知られることなく作成できる点もメリットですが、遺言が相続人に発見されずに終わってしまう場合があるので、保管場所に注意が必要です。
自筆証書遺言が破棄された場合、遺言自体が無くなるので、基本的に遺言の効力は無くなります。ただ、遺言の内容が立証できるのであれば、遺言の内容に従い相続されることになります。自筆証書遺言の場合、家庭裁判所で検認の手続きが必要になるので、検認後に破棄された場合には、家庭裁判所に遺言書の内容や検認を行った状況を記録した調書があるので立証することはできるでしょう。 -
(2)秘密証書遺言の場合
秘密証書遺言とは、遺言者が自作した遺言書に封をして、公証役場において公証人1人お及び証人2人以上に、遺言書の存在を確認してもらう遺言書です。署名以外はパソコンで作成しても構いません。証人・公証人は遺言内容を見ないので、遺言書があるという事実だけが明らかになっている遺言形態です。
秘密証書遺言が破棄された場合、自筆証書遺言と同様遺言自体が無くなるので、基本的に遺言の効力は無くなります。遺言があったという事実は公証役場で確認できますが、遺言の内容は秘密なので、遺言の内容を立証することはほぼ不可能と言えます。したがって、秘密証書遺言が破棄されてしまった場合には、遺言の効力は失われる可能性が高いと言えます。 -
(3)公正証書遺言の場合
公正証書遺言とは、公証役場に赴き、2人の証人が立ち会い、公証人が遺言者から遺言内容を聞き作成する遺言書です。遺言書は、公証役場で保管されます。法律実務に従事してきた裁判官や検察官が公証人となることが多く、その公証人が遺言を作成するので、最も信頼性が高い遺言形式です。
公正証書遺言は公証役場で保管されているので、遺言書を破棄したとしても遺言の効力に変わりはありません。遺言書の正本または謄本を取得すれば、それを持って相続手続きができます。
3、破棄・偽造した人へのペナルティー
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(1)民事上のペナルティー
① 相続欠格
相続欠格とは、相続人の資格が剝奪されることです。相続欠格となった者は相続人の資格を失うことになります。欠格事由は次の5つです。(以下、民法891条より抜粋)- 一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
- 二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
- 三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
- 四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
- 五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
遺言を破棄した場合や偽造した場合は、上記に該当するので、相続欠格となります。相続欠格者となると相続権は無くなりますが、子どもがいる場合には子どもが変わって相続することになります。
相続欠格は、本人が認めれば特に手続きはいりませんが、認めない場合には裁判で争うことになります。
② 損害賠償請求
遺言を破棄した、あるいは偽造した場合、その行為は故意に他人の権利を侵害したと言えるので、不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます。遺言を偽造されたため、遺言無効確認訴訟を提起しなければならなくなったような場合、訴訟費用や弁護士費用なども請求できます。 -
(2)刑事上のペナルティー
① 私用文書等毀棄罪
遺言書は、他人の権利義務に関する文書なので、遺言書を破棄した場合には「私文書毀棄罪」になる可能性があります。「他人の文書」とは他人の所有に属するものをいい、「権利義務に関する文書」とは、権利・義務の存否、得喪変更を証明するための文書をいいます。私文書毀棄罪の法定刑は「5年以下の懲役」となります。
② 私文書偽造罪
遺言書は、文書名義人が私人なので「私文書」であり、権限がないのに他人名義の文書を作成することは「偽造」にあたるので、「私文書偽造罪」になる可能性があります。また、遺言は署名または押印が求められるので、「有印私文書偽造罪」となります。有印私文書偽造罪の法定刑は、「3月以上5年以下の懲役」となります。
4、遺言書の破棄や書き換えを防ぐ方法
自筆証書遺言と秘密証書遺言は、遺言を破棄されてしまうと、遺言に何が書かれていたかを把握するのは非常に難しくなります。破棄した人は相続欠格者となるので、相続権は失われますが、子どもがいる場合には子どもが相続するので、結局は、法定相続分で分配せざるを得なくなります。
また、自筆証書遺言は、封緘(ふうかん)されていないこともあるため、容易に偽造が可能であり、遺言を発見した人が、自分に都合のよいように書き換えるということが行われやすいものです。
これらの問題を回避するには、公正証書遺言にするのが最も確実です。公正証書遺言であれば、遺言書の原本は公証役場に保管されるので、破棄されることも、偽造されることもなくなります。また、遺言の内容も公証人が確認するので、無効になることはなく、安心です。
最も、公正証書遺言は、2人の証人の立ち会いが必要であり、費用も掛かるので、ハードルが高いといえるでしょう。
他にも、自筆証書遺言を法務局に保管するという方法もあります。これは、令和2年7月から開始した新しい制度です。法務局に保管されるので、遺言書を破棄されたり、書き換えられたりすることはなくなります。
なお、どのような遺言形式にしたらよいのか決められない、あるいは、書き方がわからないというような場合には弁護士に相談することをおすすめします。自筆証書遺言について弁護士に依頼した場合、書き方についてレクチャーすることも可能です。
公正証書遺言を弁護士に依頼した場合、面倒な手続きをすべて弁護士に一任することができます。また、証人も確保することが可能なので、遺言の秘密を守ることが可能です。さらに遺言執行者に弁護士を指定しておけば、遺言の内容に従い、確実に遺産を分配することができます。
5、まとめ
今回は、遺言書が破棄・偽造された場合の対応について解説してきました。遺言といっても3つの種類があり、遺言の種類によって破棄や偽造された場合の効果も異なります。
遺言の破棄や偽造を回避するには、「公正証書遺言」がおすすめです。なお、公正証書遺言の作成は公証役場での手続きが必要なため、書類の準備など結構手間がかかります。証人の確保も必要なため、面倒な場合には弁護士に依頼することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスでは、相続に関して経験豊富な弁護士や税理士が在籍しているので、相続問題や相続税対策などワンストップで対応可能です。遺言について相談したいという場合にはお気軽にご連絡ください。
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