条件付き遺言|種類や文例、認められないケース、注意点を紹介
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裁判所が公表している司法統計によると、令和4年に鹿児島家庭裁判所に申し立てのあった遺言書の検認事件の件数は、224件でした。公正証書遺言や法務局保管の自筆証書遺言は検認の対象外であるため、実際にはこの数字よりも多くの方が遺言書を利用していると考えられます。
遺言書を作成する際には、一定の条件を定めて財産を渡すことも認められています。このような遺言を「条件付き遺言」といいます。条件付き遺言ではさまざまな条件を付けることができますが、内容によっては条件が認められないこともありますので、遺言書の作成を検討される場合には条件付き遺言の仕組みについてしっかりと理解しておくことが大切です。
本コラムでは、条件付き遺言の種類や、文例や作成にあたっての注意点などを、ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスの弁護士が解説します。
1、条件付き遺言とは
遺言書とは、被相続人が生前に自分の死後の財産をどのように分けるかの意思表示を書面に残したものです。
遺言書がある場合には、相続人による遺産分割協議よりも遺言書の内容が優先されるため、遺言書に従って遺産を相続させることができます。
このように、遺言書とは、被相続人が生前にできる相続対策のひとつとして利用される手段なのです。
遺言書の内容としては、「長男にA不動産を相続させる」のように単純に遺産の帰属を定める内容だけでなく、一定の条件を満たした場合に遺産を相続させることも認められています。
これを「条件付き遺言」といいます。
たとえば、以下のような文例を含む遺言が、条件付き遺言となるのです。
- 長男が大学に合格したら、A不動産を相続させる
- ペットの世話をすることを条件として、すべての遺産を相続させる
2、条件付き遺言の種類
条件付き遺言には、主に「停止条件付き遺贈」、「解除条件付き遺贈」、「負担付き遺贈」の三種類が存在します。
それぞれの種類に応じて条件成就の効果が異なってきますので、特徴をしっかりと理解したうえで使い分けることが大切です。
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(1)停止条件付き遺贈
停止条件付き遺贈とは、遺言者の死後、条件が成就したときに効力が発生する遺贈です。
遺言書で定めた条件が成就するまで効力が生じないという点が特徴になります。
停止条件付き遺贈の具体例としては、以下のようなものがあります。- 孫である○○が婚姻したときは、金○○万円を遺贈する
- 孫である○○が大学に進学したときは、A銀行の預貯金を遺贈する
- 孫である○○が○○大会で3位以内の成績を残したときは、A不動産を遺贈する
なお、受遺者が条件成就前に亡くなってしまうと、遺贈は失効してしまいます。
そのため、遺言者としては、条件成就前に受遺者が亡くなった場合に備えた定めを設けておくことも必要になります。 -
(2)解除条件付き遺贈
解除条件付き遺贈とは、遺言者の死後、条件が成就したときに効力が失われる遺贈です。
停止条件付き遺贈では条件が成就するまで効力が発生しないのに対して、解除条件付き遺贈では「遺言者の死亡により遺産に対する権利が取得されるが、条件成就によりその効力が失われる」という扱いになります。
解除条件付き遺贈の具体例としては、以下のようなものがあります。- 孫である○○に金○○万円を遺贈する。ただし、大学を中退したらこの遺贈は効力を失う
- 甥である○○にA不動産を遺贈する。ただし、甥が事業を廃業したらこの遺贈は効力を失う
なお、受遺者が条件成就前に亡くなったとしても、条件が無条件となるだけで遺贈の効力には影響はありません。
この点は、停止条件付き遺贈とは扱いが異なる点に注意してください。 -
(3)負担付遺贈
負担付遺贈とは、財産を遺贈する代わりに、受遺者に対して一定の債務を負担させる遺贈です。
停止条件付き遺贈や解除条件付き遺贈では条件成就の有無によって遺贈の効力が左右されるのに対して、負担付遺贈の場合には、負担の不履行によって当然に遺贈の効力が消滅するという扱いにはなりません。
負担付遺贈の具体例としては、以下のようなものがあります。- 長男○○が住宅ローンを引き受けることを条件として、不動産Aを遺贈する
- 長男○○にすべての遺産を相続する。ただし、その条件として長男は遺言者の妻に対して、毎月○万円を支払う
- 長男○○にA銀行の預貯金を遺贈する。ただし、長男は遺言者の死後、遺言者の愛犬の世話をする
なお、受遺者が遺言書で定められた義務を履行しないときには、相続人や遺言執行者は、受遺者に対して相当期間を定めて義務の履行の催告を行うことができます。
そして、相当期間内に受遺者が義務の履行をしないときには、家庭裁判所に負担付遺贈の取り消しを求めることができるのです。
3、条件付き遺言が認められないケースとは
条件付き遺言では、どのような条件でも有効になるわけではありません。
以下のような条件が付されている場合には、条件付き遺言としては認められない可能性があるのです。
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(1)受遺者が遺言者よりも前に死亡したケース
遺言は、遺言者が死亡した時点で初めて効力が生じます。
受遺者が遺言者よりも前に死亡している場合には、遺言が効力を生じた時点で、遺言者が存在しないことになります。
したがって、受遺者が遺言者よりも前に死亡したケースでは、当該遺贈の部分の効力が生じません。
受遺者が取得する予定だった財産は、相続財産として相続人全員に帰属して、遺産分割協議の対象となります。 -
(2)条件を実現する前に受遺者が死亡したケース
受遺者よりも前に遺言者が亡くなった場合には、遺言の効力が発生し、遺言内容に従って、受遺者は遺産を取得することができます。
しかし、条件付き遺言の場合には、条件が成就する前に受遺者が亡くなってしまうこともあります。
このような場合には、停止条件付き遺贈であるか解除条件付き遺贈であるかによって、条件付き遺言の効力が異なってくるのです。
停止条件付き遺贈の場合は、条件が成就前に受遺者が死亡してしまうと、条件の実現は不可能になり、停止条件付き遺贈は効力を失ってしまいます。
他方、解除条件付き遺贈の場合には、条件が無条件になるだけであり、遺贈自体の効力が失われるわけではありません。
そのため、停止条件付き遺贈を行う際には、条件を実現する前に受遺者が亡くなった場合も想定した定めを設けておくべきでしょう。 -
(3)遺言者が亡くなる前に条件が成就したケース
遺言者の年齢や健康状態によっては、遺言者が亡くなる前に遺言書で定めた条件が成就してしまうことがあります。
このような場合の扱いは、停止条件付き遺贈であるか解除条件付き遺贈であるかによって変わってきます。
停止条件付き遺贈の場合には、条件成就により遺贈の効力の発生が確定しているため、条件付き遺贈ではなく単なる遺贈に変わることになります。
遺贈の効力そのものには影響はありませんが、「条件付き」遺贈としての効力はなくなってしまいます。
他方、解除条件付き遺贈の場合には、条件成就により遺贈の効果は失われてしまい、遺贈そのものが無効となってしまうのです。
4、条件付き遺言を作成する際の注意点
条件付き遺言を作成する際には、以下の点に注意が必要です。
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(1)法律上の要件に従って遺言書を作成する
遺言書を作成する際には、民法上、厳格な要件が定められています。
遺言書としての必要な要件をひとつでも欠いてしまうと、遺言全体が無効になってしまうおそれがあります。
相続争いを防止するために作成した遺言書が無効になってしまうと、相続人同士での争いを防ぐことができません。
法律上の要件に従った遺言書を作成するためには、法律の知識や経験が不可欠となるため、まずは専門家である弁護士に相談することをおすすめします。 -
(2)あいまいな条件は避けるべき
条件付き遺言を作成する際には、さまざまな条件を付すことができますが、あいまいな条件を付けてしまうと遺言書の解釈をめぐってトラブルが生じることになってしまいます。
たとえば、「事業に成功(失敗)したら」、「生活に困ったら」などのあいまいな条件は避けるべきでしょう。
また、本人の主観からは明確な条件に見えても、客観的にみると不明確であったり、あいまいな条件であったりする可能性もあります。
適切な内容になっているかどうかを判断するため、弁護士に確認してもらうことも検討しましょう。 -
(3)遺留分にも配慮が必要
相続人には、法定相続分のほかに遺留分という最低限の遺産の取得割合が定められています。
法定相続分を下回る内容の遺言であっても問題はありませんが、遺留分を下回る内容の場合には、不満を抱いた相続人から遺留分侵害額請求がなされる可能性があります。
したがって、「遺留分を侵害しないような内容にする」、または「遺留分を侵害することになる相続人に事前に話をして理解を求める」などの対応が必要になってきます。
5、まとめ
遺言書を作成する際には、一定の条件を付けた「条件付き遺言」を作成することができます。ただし、内容によっては無効になる可能性もあるため、条件付き遺言を作成する際には、まずは専門家である弁護士に相談しましょう。
遺言書の作成をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています