X(旧Twitter)の特定班は警察に逮捕される?

2024年04月25日
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X(旧Twitter)の特定班は警察に逮捕される?

鹿児島県警察ではサイバー犯罪対策課を設置して、サイバー犯罪の検挙と被害防止を重点とし積極的に活動しています。近年では、「携帯電話の他人のアカウントに不正アクセスした」「元交際相手のSNSに不正アクセスした」「他人のキャリア決済を不正に使用して買い物をした」などのさまざまな事件が、サイバー犯罪対策課によって摘発されてきました。

警察がこういった活動をしていると説明しても「自分には関係がない」と感じる人は多いかもしれません。しかし、思いがけず捜査対象になる罪を犯してしまうこともあります。とくに、「X(旧Twitter)」などのSNSで個人情報を特定する、いわゆる「特定班」として活動している場合は注意を払うべきでしょう。

本コラムでは「特定班」としての活動で問われうる罪や刑罰、警察に逮捕された場合の流れ、穏便な解決方法などについて、ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスの弁護士が解説します。

1、特定班としての活動で問われる可能性がある罪

特定班として活動している人は、ご自身の行為が犯罪にあたる可能性があることに注意しなければなりません。
以下では、特定班としての活動で問われうる可能性がある罪を解説します。

  1. (1)「特定班」とは?

    特定班とは、主にネット上で注目された人の住所・勤務先・経歴・家族や恋人といった個人情報を調べ上げる活動をしている人を指します

    なぜこのような活動をするのか、という目的はさまざまです。
    単なる個人的な興味であったり、情報をさらすことで注目を集めようとしたりする人も少なくありません。
    また、とくに注目された人ではなくても、SNS上の情報から個人情報を特定して提供することで金銭を得る「特定屋」として活動している人もいます。

  2. (2)ネットの関係で問われる罪

    特定班の活動の大部分はネット上でおこなわれます。
    ネット上に散らばって公開されている情報は誰でも簡単に入手できますが、重要な個人情報は非公開の場所に隠されているものです。
    もし、非公開の個人情報を得るために、他人のID・パスワードを用いて不正に他人のSNSアカウントなどにアクセスすれば、不正アクセス禁止法第3条の不正アクセス罪に問われます。
    不正アクセス罪の罰則は、3年以下の懲役または100万円以下の罰金です(不正アクセス禁止法第11条)。

    また、不正アクセスをしなくても、個人情報を漏えいさせるコンピューターウイルスに感染させることで、隠された情報を公開させるという方法もあります。
    コンピューターウイルスを作成したり、提供したりといった行為は、刑法第168条の2の「不正指令電磁的記録作成等罪」による処罰の対象です。
    これらの行為は、それぞれ「ウイルス作成罪」や「ウイルス提供罪」と呼ばれています。
    法定刑は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

  3. (3)不法侵入で問われる罪

    特定した情報の確度を高めるために、実際に特定した場所に出向いたり、相手を尾行したりといった行為に走るこという場合もあります。
    しかし、正当な理由がないのに、他人の住居やその敷地、人の看守する空き家や別荘等、それ以外の建造物に、住居権者・管理権者の意思に反して立ち入る行為は、不法侵入にあたります。

    法律上、不法侵入にあたる行為は、刑法第130条の住居侵入罪や建造物侵入罪に問われます
    法定刑は3年以下の懲役または10年以下の罰金です。

  4. (4)誹謗中傷で問われる罪

    特定した個人情報をさらしたり、個人の社会的な評価を貶めたりする行為は、刑法第230条の名誉毀損(きそん)罪にあたる可能性があります。
    名誉毀損罪は、公然と即ち不特定または多数人が認識できる状態で、事実を摘示することで人の名誉を毀損した者を罰する犯罪ですが、摘示した事実の真偽は問いません。
    特定した情報が誤っていた場合はもちろん、たとえ情報が正確だったとしても、公共の利害に関する事実であり、その目的がもっぱら公益を図ることにあった場合を除いて処罰の対象になるのです。
    法定刑は3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金です。

    また、公然と個人に対する軽蔑の表示を行えば、刑法第231条の侮辱罪に問われます。
    事実の摘示がなくても、「バカ」など蔑視の表現があれば本罪による処罰の対象となります。
    侮辱罪には、1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料が科せられます。

    なお、名誉毀損罪や侮辱罪は、被害者からの刑事告訴がなければ刑事裁判が開かれない「親告罪」にあたります。
    つまり、罪を犯したことが事実であっても、被害者との示談交渉を尽くして刑事告訴を見送ってもらったりあるいは提出済みの刑事告訴を取り消してもらえたりすれば、原則として罪には問われないのです。

2、犯罪の疑いで警察に逮捕されるとどうなる?

以下では、特定班としての活動が罪にあたり、犯罪の容疑者として警察に逮捕されてしまった場合の、刑事手続きの流れを解説します。

  1. (1)逮捕・勾留によって最大23日間の身柄拘束を受ける

    警察に逮捕されると、ただちに身柄が拘束されます。
    身柄拘束といっても常に手錠をかけて外さなかったり、縄で縛りつけられたりするわけではありませんが、自由な行動は大幅に制限されます。

    逮捕後は警察署へと連行され、48時間を限界とした身柄拘束を受けます。
    また、警察官による取り調べなどの捜査を受けたのち、送検されて検察官へと引き継がれると、ここでも24時間を限界として身柄を拘束されることになります。
    したがって、逮捕による身柄拘束は合計で最大72時間にもおよぶのです。
    この期間は、帰宅や外出はもちろん、家族などとの面会を含めて外部との連絡が一切取れなくなります。

    ここまでが逮捕の効力による身柄拘束ですが、さらに検察官が勾留を請求して裁判官が許可すると最短で10日間、延長を含めて最長で20日間にわたって身柄拘束が続きます。
    つまり、逮捕・勾留されると、合計で最大23日間にわたって社会から隔離されてしまうことになるのです

  2. (2)検察官が起訴・不起訴を判断する

    勾留が満期を迎える日までに、検察官が起訴・不起訴を決定します。
    起訴とは刑事裁判を提起すること、不起訴とは起訴を見送る処分です。

    検察官に起訴されると、捜査の段階では被疑者と呼ばれていた立場から刑事裁判を受ける被告人へと変わり、警察署の留置場から拘置所へと移送されて引き続き勾留されます。
    被告人としての勾留にも2か月の期限がありますが(刑事訴訟法第60条第2項)、刑事裁判が継続している間は延長可能であるため、実質的に無制限で身柄を拘束されることになります

    不起訴になると、刑事裁判は開かれません。
    身柄拘束を続ける必要もなくなるので、即日で釈放されます。

  3. (3)刑事裁判が開かれる

    検察官が起訴しておよそ1か月後に初回の刑事裁判が開かれます。
    以後、おおむね1か月に一度のペースで公判が開かれ、数回の審理を経たのち、最終回に判決が言い渡されます。
    起訴から判決までにはとくに争う点がなくても2~3か月、争う点があれば6か月以上の時間がかかることもあるので、身柄拘束の長期化は避けられません。

    裁判官が有罪判決を言い渡した場合は、各犯罪に定められた法定刑・罰則の範囲で適当とされる刑罰が科せられます。
    懲役や禁錮の実刑判決であれば刑務所へと収容されますが、執行猶予が付されたり、罰金で済まされたりすれば、刑務所へは収容されません

3、特定した相手から損害賠償を請求される可能性もある

特定班としての活動を続けていると、特定した相手から損害賠償を請求される可能性があることにも注意が必要です。

  1. (1)不法行為があれば損害賠償請求を受ける可能性が高い

    民法第709条には「故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と明記されています。
    この規定は「不法行為責任」と呼ばれるもので、民法上の「不法行為責任」が成立する場合には、刑事上の責任とは別に、他人に与えた損害を賠償しなくてはなりません

    特定班としての活動が原因で損害賠償請求を受ける場合としては、次のような状況が考えられます。

    • 投稿画像などから他人の住居を特定してネット上でさらした(プライバシー権侵害)
    • 他人の経歴を特定してSNSで公開した(プライバシー権侵害・名誉毀損)
    • 他人のSNSアカウントに不正アクセスして情報を盗んだ(不正アクセス)
    • コンピューターウイルスを仕掛けて個人情報を漏えいさせた(プライバシー権侵害・ウイルス作成罪)
    • 特定したマンションの敷地で待ち伏せして外出する様子を撮影した(建造物侵入罪)


    ここで挙げたような行為があると、相手が被った実損に加えて、精神的苦痛を与えたことに対する慰謝料も含めた損害賠償請求を受ける可能性が高いといえます。

  2. (2)損害賠償請求を受けた場合に取るべき対応

    特定した相手から損害賠償請求を受けたとき、まず確認すべきは「どういった理由で請求を受けたのか?」ということです。
    不法行為責任を問われるのは、不法行為によって相手の権利・利益を侵害した場合であるため、相手が示した理由が実際に不法行為にあたるのかを確認しましょう。

    次に確認するのは「自分に責任があるのか?」という点です。
    実際に不法行為があったとしても、相手が被ったと主張する損害が自分の行為によるものかどうかを明らかにする必要があります。
    また、相手が主張する権利や利益が、実は法的に保護されないものである可能性もあります。
    たとえば、相手が名誉毀損を主張した場合でも、公共の利害に関わる情報で公益性があり、その情報が真実であるなら、相手には名誉毀損を主張する権利がないのです。

    自分に責任がある場合は、相手が示した「賠償額が適正か?」を確認しましょう
    ただし、精神的苦痛に対する慰謝料には明確な基準額があるわけではないため、過去に起きた類似の事例に照らして適正かどうかを判断する必要があります。

    これらの事項を確認するためには、法律に関する豊富な知識や経験が不可欠です。
    個人で対応すると、誤った判断をしてしまい、自分に責任のない賠償を負わされたり、過度に高額な請求をうのみにしてしまったりする危険おそれもあります。
    そのため、損害賠償請求の対応は弁護士に対応をまかせることをおすすめします

4、特定班としての活動でトラブルになったら弁護士に相談を

特定班としての活動でトラブルになってしまったら、早い段階から弁護士に相談することが大切です。

  1. (1)逮捕の回避や早期釈放を目指した弁護活動が期待できる

    警察に犯罪の疑いをかけられて逮捕されると、逮捕・勾留によって最大23日間の身柄拘束を受けてしまいます。
    長期にわたって社会から隔離された状態が続くと、家庭・仕事・学校といった日常生活にも大きな影響が生じてしまうでしょう。
    身に覚えがあるなら、まずは逮捕の回避に向けて解決を図るべきです。
    また、すでに逮捕されている状況なら、早期釈放を目指した活動を尽くさなくてはなりません。

    弁護士に相談すれば、相手との示談による穏便な解決を図ることができます
    すでに逮捕されている状況でも、相手との示談が成立させることで、検察官が不起訴処分を下して早期釈放を実現できる可能性を高められます。

  2. (2)刑事処分の軽減に向けた弁護活動を依頼できる

    特定班としての活動が犯罪にあたる場合は、捜査を経て刑事裁判が開かれて、刑罰が科せられるおそれがあります。
    裁判官が「悪質だ」と判断すれば懲役を科せられ刑務所に収容されることもあるため、罪を犯したのが事実であり検察官の起訴を避けられない状況なら、刑事処分の軽減に向けたアクションを起こすことが大切です。

    刑事処分の軽減には、罪を犯したことに対する深い反省に加えて、相手に与えた損害の賠償を尽くしているかどうか、今後同じように罪を犯すことがないよう対策を講じているかどうか、などが問われます。
    被害者との示談交渉に加えて、有効な再犯防止対策の提示が必要であるため、専門家である弁護士のサポートが不可欠です

  3. (3)損害賠償請求を受けた場合の対応も依頼できる

    たとえ不起訴などで刑事処分を免れたとしても、自分に責任のある行為で相手に損害を与えていれば損害賠償の責任を負います。
    刑事的な責任と民事上の責任は、あくまでも別のものであることに注意してください。

    特定した相手から損害賠償請求を受けたときも、弁護士が頼りになります。
    実際に賠償責任が存在するのかの法的な判断や賠償額の検討を尽くすことで、無用な賠償を回避したり、賠償の負担を軽減したりできる可能性があります

5、まとめ

X(旧Twitter)などで個人情報を暴く「特定班」としての活動は、不正アクセスや名誉毀損といった犯罪にあたる危険があります。
さらに、特定した相手から損害賠償を請求される可能性もあるため、身に覚えがある場合には穏便な解決に向けて素早く行動を起こすことが大切です。

特定班としての活動でトラブルに発展してしまった場合は、まずはベリーベスト法律事務所にご相談ください
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  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています