執行猶予が付く条件は? 刑事事件の流れや取り消しになる条件も解説
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- 執行猶予が付く条件
2024年、鹿児島地方裁判所は、知人女性の身体を触るなどのわいせつ行為をした鹿児島県警察本部の職員に対して、不同意わいせつ罪を認定し、執行猶予付きの有罪判決を言い渡しました。
刑事裁判で有罪判決が言い渡されたとしても、執行猶予が付けば、すぐに刑務所に入る必要はありません。そのため、執行猶予が付くかどうかが重要なポイントとなりますが、執行猶予が付く条件はどうなっているのでしょうか。
今回は、執行猶予が付く条件と刑事事件の手続きの流れについて、ベリーベスト法律事務所鹿児島オフィスの弁護士が解説します。
1、刑事事件の手続きと流れ
執行猶予が付く条件を説明する前提として、まずは、刑事事件の手続きとその流れをみていきましょう。
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(1)警察や検察による事件の捜査
警察や検察では、以下のようなきっかけがあると犯罪の捜査を開始します。
- 通報
- 被害届の提出
- 告訴や告発
- 職務質問
犯人の身元が判明していない場合には、防犯カメラの映像の精査、目撃者からの供述などにより犯人を特定し、犯罪として立件するための捜査を行います。
また、犯人が特定されたときは、取り調べ、捜索差押などの捜査により犯罪としての立件に必要な証拠を集めていきます。 -
(2)逮捕
被疑者に罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があり、逃亡または証拠隠滅のおそれがある場合には、逮捕により身柄拘束される可能性があります。
逮捕には、主に「現行犯逮捕」と「後日逮捕(通常逮捕)」の2つのパターンがあります。
現行犯逮捕とは、犯行現場の犯人、または犯罪を行った直後の犯人を逮捕することをいいます。現行犯逮捕は、犯罪および犯人が明確ですので、逮捕状なしで逮捕することが可能です。
後日逮捕とは、裁判官が発する逮捕状により犯人を逮捕する方法をいいます。犯行現場から逃げきれたとしても、その後犯人が特定されれば、警察により逮捕される可能性があります。 -
(3)逮捕後の取り調べ・勾留
逮捕により身柄を拘束された被疑者は、警察署内で取り調べを受けることになります。
逮捕は被害者の身柄を拘束するという重大な処分ですので、法律上時間制限が設けられています。具体的には、警察は、被疑者を逮捕してから48時間以内に釈放をするか、検察官に送致しなければなりません。
警察から身柄の送致を受けた検察では、必要な取り調べを終えて、被疑者を受け取った時から24時間以内に被疑者を釈放するか、勾留請求をするかの判断をしなければなりません。
検察官が裁判所に勾留請求をすると、裁判官が勾留の可否を判断します。勾留が認められると原則として10日間の身柄拘束が続きます。勾留は、延長制度が設けられていますので、勾留延長が認められるとさらに10日の身柄拘束が続くことにあります。 -
(4)検察官による事件の起訴
検察官は、勾留期間が満了するまでの間に事件を起訴するか、不起訴にするかの判断を行います。
事件が起訴されれば刑事裁判によって審理されますが、不起訴になればその時点で釈放となり、前科が付くこともありません。 -
(5)公判手続き
検察官により起訴されると公判手続きが行われます。公判手続きの流れは以下のとおりです。
- ① 冒頭手続き(人定質問、起訴状の朗読、黙秘権の告知、罪状の認否)
- ② 証拠調べ手続き(検察官側の立証、弁護側の立証)
- ③ 弁論手続き(検察側の論告・休憩、弁護側の最終弁論、被告人の最終意見陳述)
- ④ 結審
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(6)判決
刑事裁判の手続きが結審となると、最後に裁判官から判決が言い渡されます。判決の内容としては、大きく分けて有罪判決と無罪判決があり、有罪判決は実刑判決と執行猶予付き判決に分けられます。
刑事裁判で有罪となっても執行猶予付きの判決であれば、すぐに刑務所に収容されることはありません。
2、執行猶予が付く条件は?
刑事裁判では、執行猶予が付く条件はどのように定められているのでしょうか。以下では、執行猶予が付く条件について説明します。
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(1)執行猶予とは何か?
執行猶予とは、有罪判決による刑の執行を一定期間猶予することができる制度です。
たとえば、「懲役3年」の有罪判決が言い渡された場合、執行猶予の付かない実刑判決だと、裁判終了後は直ちに刑務所に収容されることになります。
これに対して、「懲役3年、執行猶予5年」という有罪判決が言い渡された場合、すぐに刑務所に収容されることはなく、5年間懲役刑の執行が先送りにされます。
執行猶予期間中は、刑務所に収容されず、自由な生活が許されます。期間中、再び犯罪を行うことなく過ごすことができれば、言い渡された刑罰を受けずにすみます。
このように執行猶予付き判決が言い渡されると、有罪判決で前科が付いてしまうものの、これまでと同様に社会で普通に生活することができます。 -
(2)執行猶予が付く条件
執行猶予を付けるには、言い渡される刑罰が「3年以下の懲役・禁錮」または「50万円以下の罰金」であることが必要です。
そのため、執行猶予を付けるには、以下のいずれかの要件も満たす必要があります。- 死刑や無期懲役、懲役5年などの有罪判決ではないこと
- 以前に禁錮以上の刑に処せられたことがないこと
- 以前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日またはその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがないこと
なお、執行猶予の期間は、1年から5年の範囲で裁判所が定めることになります。
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3、執行猶予が取り消しになる条件
執行猶予付きの判決が言い渡されたとしても、以下のような条件に該当する場合には、執行猶予が取り消しになる可能性もあります。
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(1)執行猶予中に禁錮以上の刑に処される
薬物犯罪や性犯罪などの依存性の高い犯罪は、執行猶予期間中に再び罪を犯してしまう可能性もあります。
しかし、執行猶予中に禁錮以上の刑に処せられてしまうと、執行猶予は必ず取り消されてしまいます。
執行猶予が取り消されると、当初言い渡された懲役刑・禁錮刑の期間に、再犯で科せられた分を合算した期間、刑務所に収容されてしまいますので十分に注意して生活しなければなりません。
状況によっては再犯防止のために専門機関を受診し、治療に専念する必要もあるでしょう。 -
(2)執行猶予中に罰金刑に処される
執行猶予中に罰金刑に処せられてしまうと、裁判所の判断により執行猶予が取り消されてしまう可能性があります。禁錮以上の刑に処せられた場合と異なり、必ず執行猶予が取り消されてしまうわけではありませんが、その可能性は十分にありますので気を付けて行動する必要があります。
特に注意が必要なのが交通違反です。ちょっとした不注意により交通違反をしてしまうと、内容によっては罰金刑が科されて執行猶予が取り消されてしまうこともあります。そのため、執行猶予期間中は車の運転を控えるか、特に注意して運転するようにしましょう。
4、執行猶予の可能性を高めるためにできること
執行猶予付きの判決を獲得できるかどうかにより、その後の生活が大きく変わってきます。そのため、少しでも執行猶予の可能性を高めるためにも以下のような対応を検討していきましょう。
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(1)深く反省している態度をあらわす
執行猶予を獲得するためには、裁判官に社会内での更生が可能であることを理解してもらう必要があります。
そのためには、まずはご自身で罪を認め、深く反省している態度を示すことが必要になるでしょう。取り調べや公判手続きでの態度で示すことはもちろんのこと、反省文を作成して、公判手続きで提出することも有効な手段となります。 -
(2)家族に監督してもらう
住居や仕事がなく、頼れる人もいないと社会での更生は困難だと判断されてしまうおそれがあります。
しかし、家族の監督や支援があることを、裁判で約束すれば、再犯のおそれが低いと示すことができます。どのような形で家族の監督を受けるのかは、具体的な状況によって異なりますので、まずは家族とじっくりと話し合って今後の再犯防止についての取り組みを考えていくとよいでしょう。 -
(3)被害者との示談を進める
被害者がいる犯罪であれば、被害者との示談が量刑に大きな影響を与える要素となります。
判決までに被害者との示談を成立させることができれば、執行猶予付き判決を獲得できる可能性が高まります。弁護士に依頼して被害者との示談交渉を進めていくようにしましょう。
5、まとめ
執行猶予が付く条件は、前提として言い渡される刑罰が3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金であることが必要です。
執行猶予が付けば有罪判決であっても直ちに刑務所に収容されることはなく、これまでと同様に社会で生活することが可能になります。刑務所に収容されるか、社会で生活できるかは大きな違いですので、刑事裁判になった場合に執行猶予を獲得できるかどうかは非常に重要なポイントになります。
執行猶予を獲得する可能性を高めるには、刑事事件の実績がある弁護士のサポートが不可欠といえます。ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスでは、多数の刑事事件を解決した弁護士が相談を受け付けております。まずは、お気軽にご相談ください。
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