補助金不正受給で問われる罪│刑事(詐欺罪)罰・民事のペナルティー
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新型コロナウイルスの影響が長期化する中、補助金や助成金、給付金などの公的支援により何とかしのごうという事業者や一般の方は少なくありません。国や地方公共団体が公募する補助金などには多種多様なものがあり、鹿児島市のホームページにも補助金や助成金に関する情報が多数掲載されています。
一方で、補助金の不正受給のニュースも目にするようになりました。もしも不正受給をしてしまったら、どのような責任に問われるのでしょうか。
このコラムでは、事業資金などとして給付される補助金を不正受給した場合に問われる罪や民事、行政上のペナルティー、不正受給が発覚した場合の対処方法について弁護士が解説します。なお、ここでは補助金の不正受給として解説しますが、助成金や給付金と呼ばれる公的支援も不正受給で問われる責任はほぼ同様です。
1、補助金を不正受給した場合の刑事責任|詐欺罪など
補助金は特定の政策目的を推進するために支給されるものですが、当然ながら条件や用途が指定されおり、誰もが受給できるものではありません。
補助金受給の条件を満たさないことを知りながら補助金を受給してしまった場合、刑事責任と民事・行政上の責任が生じます。
この章では、まず刑事責任について解説します。
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(1)補助金の不正受給は詐欺罪などに該当する
補助金の条件を満たすように見せかけて補助金を受給した場合、人をだまして金品を受け取った場合に成立する詐欺罪(刑法246条)に該当する可能性があります。
詐欺罪の罰則は「10年以下の懲役」となっており、罰金などがない実刑となるため比較的重い罪といえます。
なお、補助金行政の適正化を図るために制定された「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」(補助金適正化法)にも不正受給に関する処罰規定があります(補助金不正受交付罪―同法29条)。
こちらの罰則は「5年以下の懲役または100万円以下の罰金(併科されることもある)」です。詐欺罪は不正受給に関与した人に対して適用されるのに対し、補助金不正受交付罪は法人など事業者に対しても罰金刑が科される可能性があります。
どちらの罪が適用されるのか刑事裁判では問題になることもありますが、最高裁は両方の罪が成立する場合は、罰則が重い詐欺罪を適用してもよいという立場をとっています。 -
(2)罪に問われる補助金不正受給の具体的な事例
補助金の不正受給で詐欺罪に問われる可能性がある行為の典型例は次のようなものです。
- 受給の条件となる事業内容や実績を証明する書類を偽造する
- 架空の経費や水増しした経費を計上する
- 請求書の日付を書き換える
補助金の申請のために提出した書類が所管官庁や会計検査院の検査対象となり、不正が発覚するケースが目立っています。
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(3)詐欺罪の5つの要件
詐欺罪とはどのような場合に成立するのか、補助金不正受給の例に当てはめて解説します。
① 人をだます行為
詐欺罪は人をだますという点に特徴があり、窃盗罪や恐喝罪などと区別されます。
法律用語ではだますことを「欺罔(ぎもう)する」といいます。
事業内容や経費を故意に偽装し、偽造した証拠書類(請求書など)により、本来は受給できない補助金の申請をすることは欺罔行為に該当するといえます。
一方、受給資格がないのにあると誤信して補助金申請をした場合、欺罔行為とはいえず、故意もないため詐欺罪は成立しません。
欺罔行為が認められると詐欺罪の実行に着手したことになり、補助金をもらわなくても詐欺未遂罪に問われる可能性があります。
② 欺罔行為により相手が錯誤に陥ること
欺罔行為を向けられた人がだまされたことに気付かず、錯誤に陥ることも要件となります。
欺罔行為があっても、うそが見破られている場合には詐欺罪は成立しません。
補助金申請の場合、役所の担当者などがうそを見破っているのに給付手続きを進めることはありえないため、この点はあまり問題にはなりません。
③ 財物の処分行為 ④ 財物の移転 ⑤ 財産的損害
欺罔行為による錯誤によって、被害者が金銭の交付など財物の処分行為をし、その財物が欺罔者へ移転することにより詐欺罪は成立します。
補助金の給付という金銭の流れがあり、本来支給されることがない補助金が支給されることで財産的被害が生じることは明白なことから、これらの点が問題になることは考えにくいといえます。 -
(4)コンサルタントへの依頼も詐欺罪になる可能性がある
補助金不正受給の摘発事例の中には、コンサルタントに「間違いなく受給できる」などと受給をすすめられたというケースも少なくありません。
このようなケースでも、次のような理由から経営者などが詐欺罪に問われる可能性は高いと考えられます。- ① 補助金の申請は重要な経営判断であり、不正に気付かなかったという弁解はなかなか信用してもらえない
- ② 受給資格がない補助金申請をする場合、帳簿や請求書などに不自然な操作があるのが通常であり、不正受給を疑いえない状況は考えにくい
コンサルタントに補助金申請手続きすべてを任せていたとしても、経営者に不正受給かもしれないという認識があれば、共謀による詐欺罪が成立することになります。
本業に奔走する経営者が多種多様な補助金の情報を把握して受給までこぎ着けるのは容易ではありませんが、コンサルタントの甘言をうのみにするのは大きなリスクといわざるを得ません。
2、不正受給とみなされた場合の民事・行政上のペナルティー
補助金の不正受給は刑事責任の問題だけではなく、次のようなペナルティーもあります。
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(1)補助金の返還に加えて加算金・延滞金の納付義務が生じる
補助金の不正受給が発覚すると、補助金の返還だけでは済みません。
補助金を受給した日から返還する日まで年10.95%の割合による加算金、延滞金の納付が命じられることがあります(補助金適正化法19条)。
なお、「持続化給付金」や「家賃支援給付金」など緊急経済対策として支給される助成金や給付金は、給付を迅速化する代わりに不正受給のペナルティーが重く設定されています。
これらの助成金などを不正受給すると、給付金と年3%の延滞金のほか、これらの合計額に2割を加算した額を返還しなければなりません。 -
(2)補助金の交付が停止され公共事業から除外される可能性がある
補助金の不正受給をしてしまうと、その事業者は補助事業を適正に遂行する能力がないとみなされてしまいます。
そのため、同種の補助事業を行っている場合、それらも合わせて交付が打ち切られたり、一定期間、補助金の交付や公共事業から除外されたりすることがあります。 -
(3)事業者名や不正受給の事実が公表される可能性がある
これらの処分がなされると、官庁のホームページに事業者名と不正や処分の内容が掲載されます。
取引先や取引銀行の目にも触れることにもなり、社会的信用が大きく毀損することは避けられないでしょう。
3、不正受給が発覚した場合の捜査から起訴までの流れ
補助金の不正受給が詐欺罪に問われた場合の刑事事件の流れについて解説します。
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(1)告発
補助金の不正受給が発覚し、不正の内容が悪質と判断された場合、役所の告発により刑事事件化されるのが一般的です。
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(2)逮捕
補助金不正受給に関わる申請書類や帳簿類は、役所の検査により確保されていることがほとんどで、捜査では不正受給の認識があったか、主犯格は誰かということが焦点になるケースが多くなります。
そのため、
● 関係者が口裏合わせをして証拠隠滅をするおそれがある
● 重い刑罰をおそれて逃亡する可能性が高い
といった事情から、逮捕されることが多いのも不正受給による詐欺事案の特徴といえます。 -
(3)勾留
警察に告発された刑事事件はすべて検察へ送付されます(刑事訴訟法242条)。
逮捕に引き続き身柄を拘束して取り調べる必要があると判断されれば、最長20日間勾留されることになります。 -
(4)起訴
勾留の満期までに検察官は刑事裁判により刑罰を科す必要があるか否かを判断します。
補助金不正受給は、刑事裁判を見据えた上で悪質な事案が告発されるため、刑事裁判が必要と判断される、つまり起訴される可能性が高いといえます。
逮捕・勾留されていた場合、引き続き裁判のために勾留されるケースがほとんどです。
4、不正受給をしてしまった場合の対処法|弁護士に相談
補助金の不正受給が明るみに出ると、主に二つの法務リスクに直面します。
一つ目は刑事手続きへの対応、二つ目はコンプライアンス態勢の見直しです。
それぞれについて解説します。
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(1)刑事手続きへの対応
不正に受給した補助金を返還したとしても、詐欺罪の刑事責任がなくなるわけではありません。できるだけ早期に弁護士のサポートを受けながら、告発や厳しい刑事処分を避けるための対応をするのが賢明です。
補助金不正受給による詐欺は、告発されると逮捕・勾留される可能性、起訴される可能性がいずれも高く、起訴されて有罪になると懲役刑の実刑となることも十分に考えられる重い罪です。
一方で、
● 補助金を返還した
● 不正受給の経緯に関する調査や警察の捜査に進んで協力した
● 具体的な再発防止策を講じている
といった事実は、刑事責任を軽減させる事情になりえます。
このような善後策を刑事手続きの節目となる告発や起訴の前に行うことで、有利な事情を含んだ上での処分がされることも期待できます。 -
(2)コンプライアンス態勢の見直し
補助金の不正受給は、たとえ信用できそうなコンサルタントが補助金を勧誘してきたとしても、弁護士のアドバイスを気軽に受けられる環境であれば防げた可能性が高いといえます。
一度補助金の不正受給をしてしまうと取引先からの信用も失い、それを回復するのは容易ではありません。しかし、顧問弁護士を置くなどコンプライアンス順守の態勢を整えることで、信用回復の一助となるのはもちろん、刑事手続きでも再発防止策としても評価されることが期待できます。
なお、顧問弁護士のメリットは理解していてもコスト面からハードルが高いと感じる方は少なくないでしょう。ベリーベスト法律事務所では、月額3980円で必要に応じて顧問弁護士サービスが受けられるリーガルプロテクトをご用意しています。鹿児島はもちろん全国主要都市に事務所を展開していますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
5、まとめ
補助金の不正受給は、コンサルタントなどの提案を受けたものであっても、会社や経営者が責任を免れることは困難です。
その責任も、補助金の返還など金銭的なペナルティーにとどまらず、事業の継続にも影響するような信用の失墜、重い刑事責任を伴うことがあります。早急に善後策を講じながら、コンプライアンス態勢を整えて信用の回復を図ることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスでは、刑事弁護のみならず企業法務に関しても対応しております。補助金の不正受給に気付いた、検査で指摘されたというような場合は、お早めにご相談ください。
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