無在庫転売は違法行為になる? 違法になるケースと罰則
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令和3年12月に日銀鹿児島支店が発表した金融経済概況では、鹿児島県内の景気判断が「緩やかに持ち直している」とされました。とくに企業の景況感と個人消費、観光が上向きでしたが、生産は引き下げ方向だったそうです。
日本の景気の先行きには不安が残る情勢のなかでは、「副業」による収入確保をはかる人が目立ち始めました。副業にもさまざまな形態がありますが、会社員や主婦のように自由な時間が少ない人でも気軽に参入できるとして注目されているのが「転売」です。
中でも、仕入れや在庫管理が不要な「無在庫転売」の注目度は高く、インターネットで検索するとハウツーを紹介するページや無在庫転売の情報商材が多数ヒットします。
このような状況のなかで、無在庫転売にチャレンジしてみたいと考える方が気がかりになるのが「無在庫転売は違法になる」という情報でしょう。無在庫転売をすると、本当に違法になるのでしょうか。本コラムでは「無在庫転売」の法的な問題について、ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスの弁護士が解説します。
1、「無在庫転売」とは?
「なにか副業にチャレンジしたい」と考えながらインターネットで情報をリサーチしていると「無在庫転売」にたどり着くことがあります。一体、無在庫転売とはどのような行為なのでしょうか?
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(1)副業として注目されている「無在庫転売」の意味
インターネット環境さえあれば誰でも簡単にできる副業として注目されているのが「転売」です。
リサイクルショップや格安の小売店などで商品を購入し、個人で開設したネットショップやネットオークション・フリマアプリなどを活用して購入価格よりも高い価格で販売すれば、差額分が利益になります。
この手法は「せどり」とも呼ばれていますが、安い商品を探す手間がかかったり、一時的にでも仕入れとして自分のお金を支払う必要があるうえに売れなければ赤字になったり、在庫管理にもスペースや労力がかかったりするなど、あまり気軽に「稼げる」というものでもありません。
そこで登場するのが「無在庫転売」です。実際はまだ手元にない商品をネット販売し、注文が入ったあとで商品を仕入れて購入者あてに直送してもらうか、または商品が届いたあとで改めて発送します。
この方法なら、仕入れのための資金への不安や在庫管理や発送作業の手間も少なくなるので、インターネットでやり取りをするだけでお金を稼げるというのが無在庫転売のビジネスモデルです。 -
(2)無在庫転売そのものが違法になるわけではない
副業としての転売が注目されると同時に、世間では転売目的で購入する人が増えたため、以前は簡単に購入できたものが品薄になったり、高額な転売価格でないと購入できなかったりする事態が生じました。
転売目的で商品を大量に購入する人のことは、俗に「転売ヤー」と呼ばれており、メーカーや小売店も対策を強化している状況です。
ただし、転売自体が違法になるわけではないし、在庫をもたない「無在庫転売」も違法ではありません。在庫なしで注文を受けて代金支払いを受けたのち、仕入れ元から商品を購入して購入者に直送してもらう「ドロップシッピング」という取引も存在するので「手元に在庫がない状態で販売すること」は法的にも問題ないことになります。
ただし、無在庫転売はほかのトラブルにつながることも多いうえに、違法行為になってしまうケースもあるので注意しなければなりません。
2、無在庫転売が違法になるケース
無在庫転売そのものは違法ではありませんが、特定のケースに該当する場合は違法にあたる可能性があります。
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(1)代金支払いを受けたのに商品を発送しない
無在庫転売では、購入者から代金の支払いを受けたのに商品を確保できないという事態が起こり得ます。
たとえば、商品販売をはじめた時点では仕入れ元の在庫が豊富だったのに、商品が購入されて仕入れようとした時点では在庫がなくなっていると商品を確保できません。
しかし、代金支払いを受けていれば購入者に商品を渡す義務が生じるので、商品を発送しないと民法上の「債務不履行」となります。この場合は、たとえ販売価格とは見合わない価格で利益が得られないとしても別の業者から仕入れて発送するか、もしくは販売者側の都合でキャンセルして返金するしかありません。
なお、そもそも代金支払いを受けても商品を発送するつもりがなかった場合は、うそをついて商品代金の名目でお金をだましとったことになるので、刑法第246条の詐欺罪が成立します。詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役であり、重罪です。 -
(2)扱う商品ごとに必要な許可を受けていない
無在庫・在庫ありの区別にかかわらず、特定の商品については許可を得ないと販売できません。
- 中古品を転売する場合 ネットオークションやフリマアプリなどで不用品を販売する程度なら許可は不要ですが、利益を得るために仕入れ・販売を繰り返している場合は古物商としての公安委員会の許可を得なければなりません。窓口になるのは管轄の警察署の生活安全課です。
- 医薬品を転売する場合 医薬品を販売する場合は、薬機法にもとづく許可が必要です。病院・薬局で処方された薬はもちろん、ドラッグストアなどで購入できる市販薬のほか、うがい薬、妊娠検査薬なども無許可では転売できません。
- 酒類を転売する場合 酒類を販売できるのは、管轄の税務署から免許を受けた酒類販売業者だけです。店頭で販売する場合は一般酒類小売業免許、インターネットで販売する場合は通信販売酒類小売業免許を受けていなければ無免許販売にあたります。
無許可で古物販売を営業すると、古物営業法第31条1号の規定によって3年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。
ただし、制汗スプレーや薬用せっけんなどの医薬部外品は無許可でも転売可能です。
無許可で医薬品を転売すると、薬機法第84条9号の規定によって3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはこれらの両方が科せられます。
災害や感染症流行などを理由に医薬品が入手しづらくなるタイミングでは価格が高騰しますが、医薬品の販売はつねに強い監視を受けているので無許可転売は大変危険です。
無免許販売の罰則は、酒税法第56条1項の規定に従い、1年以下の懲役または50万円以下の罰金です。贈答品などを処分するために個人がネットオークションやフリマアプリなどで販売するだけなら免許は不要ですが、プレミアがついた酒類を中心に仕入れて高額転売するといった取引を繰り返していると無免許販売になってしまいます。 -
(3)公式サイトなどから画像を無断で転載した
無在庫転売では、商品そのものが手元にないため、商品を紹介するページで使用する画像をどこかから入手する必要があります。
ただし、商品の公式サイトや他の販売サイトに掲載されている画像を無許可で使用すると著作権侵害にあたるおそれがあるので注意が必要です。
著作権侵害を犯すと、著作権法第119条1項の規定により10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはその両方が科せられます。 -
(4)転売が禁止されている商品を転売した
コンサートやスポーツの試合などの入場チケットのうち、興行主の同意のない有償譲渡が禁止されており、興行の日時・場所・座席または入場資格者が指定されたものは「特定興行入場券」にあたります。特定興行入場券は「チケット不正転売禁止法」によって保護されているので、定価を上回る高額転売は禁止です。
チケットの不正転売には、同法第9条1項の規定によって、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはその両方が科せられます。 -
(5)所持や販売が禁止されている商品を転売した
そもそも所持や販売が禁止されている商品は転売も違法です。
- 覚醒剤や大麻などの違法薬物
- 銃砲や刀剣類
- 商標権侵害にあたるコピー商品 など
禁制品にあたる物は、単純に実物を所持していることよりも営利目的の売人・バイヤーのほうが厳しく処罰されます。
3、規約違反に注意!合法でも問題になるケース
無在庫転売そのものは合法でも、販売の方法によってはペナルティーを科せられてしまうことがあるので注意が必要です。
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(1)無在庫転売が禁止されているプラットホームを利用している場合
利用しているオークションサイト・フリマアプリなどによっては、利用規約に無在庫転売を禁止しているプラットホームが存在します。
- Amazon(アマゾン)
- ヤフオク!(旧:ヤフーオークション)
- メルカリ
- 楽天ラクマ
- モバオク!
- paypayフリマ
これらのプラットホームでは「実際に商品が手元にない状態での出品」は禁止です。ここで挙げたのはネット販売の大手サイトであり、事実上、無在庫転売を許しているプラットホームはごく少数しか存在しないと考えられます。
無在庫転売であると通報されると、規約違反を理由に出品の取り消しやアカウントの凍結、以後の利用禁止などの措置を受けるおそれがあることを心得ておきましょう。 -
(2)相場よりも著しく高い金額や安く装って高額な送料を設定した場合
高額転売を敬遠するユーザーが増えたため、販売サイト側は高額転売への対策を講じています。
著しく相場よりも高い出品について、定価を表示し、高額出品であることをアラートする機能を実装したり、運営サイドで不適切と判断した場合は出品の削除措置が講じられたりすることもあるので、利益を得るためとはいえ、価格設定には注意が必要です。
また、高額転売対策の抜け道として、商品価格は適正でも異常に高額な送料を設定する出品者も現れています。これらの行為は、ユーザーの利益を大きく損なう行為として厳しく評価されるため、販売サイト側から不適切な出品者として利用禁止などの厳しい措置を受けるかもしれません。
4、無在庫転売のトラブルは弁護士に相談を
仕入れの負担が少なく、在庫管理や発送の手間も軽い無在庫転売ですが、利用規約の違反や高額転売への批判も相まってトラブルに発展する危険も低くありません。無在庫転売がトラブルに発展してお困りなら、弁護士に相談してアドバイスを受けましょう。
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(1)刑事事件化の回避が期待できる
無在庫転売そのものは違法ではありませんが、販売方法や取り扱う商品によっては違法になってしまうおそれがあります。
さまざまな商品を取り扱っているうちに、本来は許可や免許が必要な商品を無許可・無免許で転売してしまう事態も起こり得るでしょう。
たとえ「知らなかった」としても、法律によって販売が禁止されている商品を転売すれば処罰の対象になります。刑事事件に発展すれば厳しい刑罰を科せられてしまうおそれもあるので、弁護士に相談してサポートを求めるべきです。
早期に適切なアドバイスを受けることにより、刑事裁判にかけられた場合でも、刑罰が軽くなるよう裁判対応することが見込めます。 -
(2)取引相手との示談交渉も一任できる
購入者とのトラブルに発展すると、販売サイト側への通報や損害賠償請求を受けるといった危険があります。早期に対応しないと、無在庫転売だけでなく在庫をもつ通常の転売や販売サイトの利用も許されなくなってしまうかもしれません。
弁護士に相談すれば、取引相手との話し合いによる解決が期待できます。早期に示談交渉を進めれば、穏便な解決によって今後の販売サイトの利用が守られる可能性も高まるでしょう。
5、まとめ
「無在庫転売」そのものは違法ではありません。ただし、商品が手元にない状態での販売を禁止している販売サイトも多く、取り扱う商品によっては事前に許可や免許を受けていないと違法になってしまうこともあるため、注意が必要です。
違法状態のままで無在庫転売を続けるのは危険なので、トラブル時の対応を含め、法的な問題のアドバイザーとして弁護士にアドバイスを求めましょう。
無在庫転売に関するトラブルへの対応や不安は、ベリーベスト法律事務所 鹿児島オフィスにご相談ください。経験豊富な弁護士が、販売における法的な問題の解決を全力でサポートします。
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